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HD DVDがROMメディア普及に自信を持つ理由(2/3 ページ)

» 2004年08月20日 09時07分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 同社がそう主張したのは、ディスク基板が薄い方が生産性が高くなるからだったという。これは、ポリカーボネート製ディスク基板が薄いほど、冷却時間を短くできるからだ。

 実際、DVDは黎明期こそ歩留まりに苦労し、タクトタイムも6秒以上かかっていたが、最新DVD製造装置の中には2.5秒のタクトタイムを実現するものも登場している。それに対し、CD(1.2ミリ基板)の場合、一定以上の品質を確保するためには、最低でも3秒以上のタクトタイムが今でも必要だ。ディスク基板が1.1ミリのBD-ROMは、それ自身が持つ熱容量が大きいため、材料が安定する温度に下がるまで時間がかかる。

 メモリーテックの公開した互換製造ラインの場合、射出成形装置で作られたディスク基板を、いったん三つの“基板置き場”に順に置き、冷えたものから順にスパッタリング装置(アルミ反射層を生成する装置)へと送り出す。“基板置き場”はディスクが取り付けられると毎秒8500回転し、遠心力で小さな反り・変形を抑えつつ冷却する。

ディスク基板の冷却部

 メモリーテックが“スピンクーラー”と呼ぶ部分が、0.6ミリの薄いディスク基板とともにタクトタイムを短縮する上での重要な行程になっている。射出成型機から出た120度のディスク基板は、スピンクーラーに取り付けた時点で110度、7秒間の冷却後に60度まで下がり、スパッタリング装置に入る頃には40度になる。

 この工夫により「タクトタイムを2秒にまで短縮しても、射出成形で問題が起こることはない。今後、さらなるタクトタイム短縮の鍵になるのは、スタンパからのピット転写をいかに短時間で行うかだが、10月中頃の新生産ラインで2秒台、最終的には2秒が可能」(勝浦氏)。

メモリーテックの主席技監・次世代DVD担当、勝浦寛治氏

 冷却時間の問題を解決するには、ポリカーボネートの分子量を減らせば良いが、分子量を下げすぎると材料としての特性が下がり、割れや反りなどの問題が出やすくなる。すでに光ディスク材料としてのポリカーボネートは研究し尽くされていることもあり、「高品質を実現できるギリギリの分子量は既に明らかで、それ以上は下げられないだろう」と勝浦氏は話す。

来年、新規のDVD製造ラインはほとんどがHD DVD対応に

 さらに製造装置自身のコストは、従来のDVD製造装置と同じ。実際にはBCAを刻む装置を加える必要があるため、BCA刻印までをインラインで構築すると、トータルで10%ほどのコストアップになる。だが、“とりあえず、将来はHD DVDも製造できるDVDの製造ライン”を作るだけならばBCAの行程は必要なく、DVD製造装置のリプレースや追加時に無理なく導入できる。

 前述したように、タクトタイム3.5秒の現行互換製造ラインに関しては、東芝を窓口に他社にもノウハウを供与することが決まっており、大手を含む多くのDVD製造装置メーカーが互換製造ラインを自社ラインナップに加える意向を示しているようだ。コストアップにならないのであれば、HD DVD互換とすることで商品力を高めなければ、DVD増産へのニーズが高まっている現状において、競争力を維持できないからだ。

 「おそらく来年にはほとんどの製造装置ベンダーがDVD/HD DVD互換製造装置をラインナップする。DVD生産枚数の増加ペースはさらに加速しており、製造装置の追加導入やリプレースもそれに伴って増えている。これは、HD DVDを、通常のDVDと同じコストで生産できる設備が世界中に広がることを意味している」とメモリーテック代表取締役社長・川崎代治氏は話す。

メモリーテック代表取締役社長・川崎代治氏

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