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PCの技術で完璧な「専用機」を作る小寺信良(2/3 ページ)

» 2004年08月23日 11時19分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 「このシリーズをリリースしたのは5年前になりますが、当時ビデオ映像のような何時間も連続したものを1ファイルで扱えるような構造を持ったファイルシステムは、BeOSぐらいしかなかったんです。もちろんそれだけではなくて、優れたジャーナリング機能を備えていたという点もありました。」

 ジャーナリングファイルシステムは、データの安全性を高めるための仕組みだ。ファイルシステムが常にジャーナルと呼ばれるデータを保存することにより、システムに障害が起こったときにそのジャーナルを参照してデータの復旧が可能になる。NTFSもそうだが、Linuxのext3やMaxOS X、エンタープライズ用Unixなど、最近のファイルシステムにはほとんど採用されていると言っていいだろう。

 「ジャーナリング機能はいろいろなOSで採用されてますが、どこを大切にするかでそれぞれ特徴があります。われわれがいろいろテストした中で、修復のスピードも含めて一番我々の用途に合ったのが、BeOSであったということなんです。」(室井氏)

 この日、某所で行なわれたDV-7DL PROの勉強会では、作業中のマシンのコンセントをいきなり引き抜き、再度挿して起動させ、作業中のプロジェクトを再開するというデモンストレーションが行なわれた。そこまで大胆なトラブルでも、編集途中の作業結果が失われることはない。

 もちろんすべてをOSのジャーナリング機能だけに頼っているわけではなく、編集ソフトウェア側でも常時プロジェクトのバックアップを保存している。これとジャーナリング機能との組み合わせで、堅牢な専用機としての仕様を実現している。

進化しないメリット

 事実上開発が止まっているOSを採用するということは、将来性という意味ではデメリットがあるように見える。だが反対に、そういうOSだからこそメリットも多いという。同社国内営業グループ係長 飯田 厚二氏は、この状況をこう説明する。

 「BeOSは今やかなり枯れて、安定したOSになっています。OSが固定しているということは、ライブラリにしてもドライバにしても、今ないものはこれからも出てこないわけですから、全部自分たちで作るしかないことがはっきりしている。だから開発も、ある意味こちらで自由にやれるということなんです」

 「もしOSのアップデートがあったとしても、それがビデオ編集に関係ないのであれば、無視するでしょうね。お客様にとってもわれわれにとっても、OSがアップデートするたびにいろいろな問題を抱え込むということがなくなります。もちろんウィルスもありませんし」(室井氏)

 OSまで含めてマシンそのものを完全にメーカーが掌握できるという点では、ビジネス的にもメリットは大きい。例えばビデオに文字を入れるための日本語フォント類もエディロールで販売しており、競合他社は存在しない。デジタルカメラで撮影したJPEG画像も読み込めるが、USB接続するカードリーダーすらも専用品だ。

 「OSやCPUの性能なども、積極的には公表していません。数値によるスペックよりも、編集機としての体感スピードで見て下さい、というのが基本姿勢です。使用頻度が高い処理はリアルタイムにするなど差別化して、ストレスがないように仕上げています」(室井氏)

 わざわざBeOSマシンを買わなくても、Windowsに編集ソフトは数多い。しかしそれぞれが機能の多さを誇ってはいるものの、編集作業におけるタスクを分類してプライオリティ付けを行なっても、実際には期待どおりの成果をあげることは難しいだろう。編集ソフトウェア管理外の要素、デバイスドライバやライブラリなどの性能が、そういった意図に付いてこないからだ。

 だがBeOSのような固定環境は、ハードウェアとソフトウェアの仕様を完全にすり合わせることが可能で、マシンパワーはたいしたことなくても、DV-7DLではかなり高レスポンスの操作性を構築することに成功している。そこには同社のもともとのベースである、「音楽」の要素もあったに違いない。

 音楽は映像と違って、PLAY状態になければ成立しない。したがってMIDIシーケンサーやドラムマシンの操作は、再生中に各種のエディットが可能になっている。そしてこの発想はDV-7DLにも受け継がれ、プレビュー再生状態でありながら映像の編集が可能な「ノンストップ・エディティング」という、摩訶(まか)不思議な操作性を構築している。

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