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“アリの足先より小さな鏡”が生み出す映像美――DLPの魅力劇場がある暮らし――Theater Style(1/2 ページ)

» 2004年09月03日 18時00分 公開
[西坂真人,ITmedia]

 コントラスト比の高さはホームシアターで映画を鑑賞する上で重要なポイントだ。白黒がハッキリして精鋭感のある高コントラスト比のハイエンドプロジェクターは、ホームシアターユーザーにとって憧れでもある。このような50万〜100万円前後の中・高級機には、表示方式にTexas Instruments(TI)が開発した「DLP」を採用している製品が非常に多い。

 DLPから生まれる映像美の魅力とその可能性について、日本テキサス・インスツルメンツDLP事業部統括部長の原清司氏に話を聞いた。

photo 日本テキサス・インスツルメンツDLP事業部統括部長の原清司氏

 DLP(Digital Light Processing)は仕組みの総称でシステムの概念を表し、表示デバイスそのものはDMD(Digital Micromirror Device)という。1987年に米国TIのラリー・ホーンベック博士が開発したDMDは、その名の通りマイクロメートルサイズの超極小な鏡(マイクロミラー)を反射板としてCMOS半導体基板上に敷き詰めたもので、1つ1つのミラーが1画素となって画像を構成する。1チップに48万〜131万個も敷き詰められた正方形のミラーの1粒は、なんとアリの足先よりも小さいのだ。

photo 半導体基板上に敷き詰められたミラーは、アリの足先よりも小さい超極小サイズ

 原氏はDMDの製造面でのメリットについて「DMDはセミコンダクターを作る設備・工程で生産できる。つまり、TIが有する信頼性の高いIC生産技術をそのまま生かして作れる。ICはもともとゴミやホコリを嫌うので、そのクリーンなIC生産ラインを使うことで、信頼性の高いデバイスが高歩留まり率で作れるのだ。さらに、作りなれてくるとだんだんコストが下がってくるというセミコンダクターならではのメリットがそのまま享受できる」と語る。

photo DMDチップは半導体と同じ設備や工程で生産できるのがメリット

 DLPはこのDMDにランプで光を当てて、マイクロミラーに反射した光がレンズを通して画像を投影するという仕組みになる。マイクロミラーは、デジタル制御で一定の角度(ON/OFFで±12度)に傾き、1秒間に数千回という高速スピードでON/OFFを切り替えることが可能。ONの時はマイクロミラーが投影レンズを通過する方に光を反射するためスクリーンに映像が映し出され、OFFの時はマイクロミラーが光吸収板の方に傾くために光は吸収されて真っ黒になる。光の濃度はこのON/OFFの回数を調整することで表現されるのだ。

photo DLPの仕組み

 「5〜6粒でやっと人間の髪の断面ぐらいの微細なDMDの1つ1つが独立して動く。この超極小ミラーの反射で1ピクセル単位で光のON/OFFを切り替えることができるために、透過型の液晶方式よりも高いコントラスト比が可能となる。また、その動作スピードは、液晶方式がミリ秒単位なのに対してDMDはマイクロ秒単位と1000倍以上の違いがある。このスピードの差は動画再生時に顕著に表れ、鮮鋭でなめらかに動く映像を表現できるのだ。DLPが動画に強いといわれる理由がこれ」

フルデジタルの強み

 フルデジタルのディスプレイ技術であるDLPは、デジタル信号をアナログに変換する必要がない。デジタルで制作された画像や映像を表示段階までデジタルで対応できるというのもメリットだ。

 「液晶ディスプレイなど表示がデジタルの機器でも、色を作る過程では電圧を調整して透過量を変更する“アナログ変換”を行っている。DLPは、デジタルで制作された画像や映像を一度もアナログに変換しない。マスターのデジタルデータの品質を損なうことなく表示できるのがフルデジタルの良さ。DLPは本物の色を忠実に再現できる」

 このフルデジタル方式が評価されて「DLPシネマ」として映画のデジタル上映にも採用。ハリウッドの映画業界でも、その色再現性は高く評価されているという。

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 「DLPシネマを採用した映画館は世界中に約300館あり、ポストプロダクションにも約60台ほど設置されて映画を製作するときのモニター代わりに使用。日本でも23スクリーンでDLPシネマが採用されている。上映が進むにつれ映像が劣化してくる従来のフィルム方式に比べて、DLPシネマはいつまでも封切りしたての鮮やかな映像が楽しめるのが特徴。ホームシアターの最上位はシネマ(映画館)。DLP方式の映画がキレイだったという思いが、ホームエンタテインメントでのDLP製品の購買につながっていけばという気持ちでDLPシネマを展開している」

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