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スペックアップとコストダウンを両立した中級機〜ソニー「TA-DA7000ES」インタビュー(3/3 ページ)

» 2004年09月07日 00時16分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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 “TA-DA9000ESでのノウハウを活かして”というのは、何もパワーアンプブロックだけではない。デジタル信号処理に関しても、TA-DA9000ESだけに採用されていたものを、そのまま持ち込もうとしているようだ。以下、音質に関連する部分を抜き出して紹介しよう。

  • マスタークロックのPLL回路にTA-DA9000ESと同じジッターを従来比1/30にした高性能版を採用

  • クロック信号に混入、ジッターノイズ源になりやすいDSP基板をサブ基板にまとめ、電源やグランドの引き回しを工夫することでメイン回路への影響を遮断

  • リップシンクやスピーカー距離補正などのディレイ処理を専用チップで行うことでDSPの負担を軽減(ディレイ処理は処理自体はシンプルだが外部メモリアクセスが多く、DSPがメモリウェイトでストールし、大きな負荷になる)

  • A/DSD変換と各種PCM信号へのデシメーションフィルタを内蔵した新チップを採用。前アナログ入力をA/DSDで受ける

  • プリアウト用専用DACにTA-DA9000ESと同じものを採用。なお、このDACは「STR-VZ555ES」がアナログアンプブロックに信号を入れる時に使っているDACと同じ

  • i.LINK入力が2系統(ディジーチェーン不可)になり、新設のi.LINKボタンでトグル切り替え可能に。各ビデオ入力系統にもi.LINKを割り当て可能になった(自動アサイン設定も可能)

  • “CBプログラミング”と呼ばれる独自のオプティマイズ技術を採用することで、デュアルコアのメインDSP稼働率が30%以上アップ。「TA-DA9000ES」では2DSP、「VZ555ES」では3DSPで行っていたデジタルシネマサウンドと全く同じ音場プログラムを1DSPで実行可能になった

  • TA-DA9000ESに搭載されていたDVI-D切り替え機能と同等のHDMI切り替え機能を搭載

 これらの特徴、特に最後に挙げたDSPを1個に減らしたという部分に、ソニーのAVアンプ設計ポリシーが表れている。DSP処理能力が上がれば、その分、プログラムを適用できるサンプリングレートを上げたり、より複雑な音場プログラムにしたりと、どんどんDSPが肥大化していくものだ。しかし金井氏は、「音場プログラムが十分なレベルに達しているならば、むしろDSPを減らす方が音質面で有利だ。デジタルシネマサウンドは、もともと相当に高性能なDSPを前提としたプログラムであるため、不利な面はない」と言い切る。

 ちょっと残念なのは、i.LINK入力が2系統、ビデオ入力に割り当て可となっていながら「ソニー製プレーヤーのi.LINKオーディオ出力のみ接続可能」となっている点だ。i.LINKのオーディオ接続をサポートするソニー製プレーヤーは、オーディオ再生専用のSACDプレーヤー「SCD-XA90000ES」および「SCD-DR1」しかない。このため、TA-DA9000ESはi.LINK接続時には高音質化のためビデオ回路がオフになる仕様で固定されていた。

 TA-DA9000ESでも、iLINK端子に他社製のDVDプレーヤーを接続すると、DVD-Videoの音声が再生可能であり(ただし無保証)、おそらくTA-DA7000ESでも同様にDVDプレーヤーの音声が再生できるものと考えられる。ビデオソースへのi.LINK音声のアサインが可能になったため、実用性も大きく増しそうだ。

 また、TA-DA9000ESのアップグレードで再生可能にするとアナウンスされているDVD-Audioに関しても、あるいはTA-DA7000ESで再生可能になっているのかもしれない。というのも、TA-DA7000ESの試作機に搭載されていたi.LINKインタフェースのチップ構成が、TA-DA90000ESとは異なるものになっているからだ。金井氏も「ソニーにはDVD-Audioプレーヤーはありませんから、再生保証は行えません。しかし、“最大限の努力”はしています」と微妙な言い回しだ。

 このあたりの細かな互換性に関しては、実際の製品をレビューする機会に確認することにしたい。

基本線はTA-DA9000ES。この先のチューニングに期待

 TA-DA7000ESは、単純なTA-DA9000ESのデチューン・低価格版ではなく、さまざまな不満点を拾い上げて改善が行われている。i.LINK入力チャネルの増加、i.LINK音声のビデオソースの割り当て、ボリューム操作性の改善、全アナログ入力のA/DSDコンバータ搭載、使い勝手や運用面だけで言えば、TA-DA9000ESよりも完成度は高い。しかし、一方で低価格化による音質への影響はいかほどのものなのか? 当然、ユーザーはTA-DA9000ESと同様の音が、安価に楽しめることを期待するはずだ。何しろ、アンプ部のデバイス能力は(出力ワット数を除き)、TA-DA7000ESの方がスペック上優れている面も少なくない。

 とはいえ、新しい部品と機能の投入が、良い音質に直結するわけではないことは、以前のソニー・金井氏へのインタビューでも明らかだ。高コストのTA-DA9000ESでは投入できていた物量を、きょう体や内部構成のコストダウンによって失っている面はあろう。言い換えれば、どこまでその物量の違いを1年間のノウハウの蓄積でカバーできているかだ。アンプに限らずオーディオ機器は、設計して組み上げただけでは音質が決まらない。そこからチューニングを繰り返すことで、心地よい音を出すアンプへと熟成していく。

 実は、TA-DA7000ESの音質チューニングは、TA-DA9000ESを担当した金井氏ではなく、木更津にあるソニーイーエムシーエス・ホームオーディオグローバルビジネス部門商品設計部設計1課の統括係長、佐藤正規氏が担当している。金井氏も昨年の経験を踏まえてアドバイスを送りながらのチューニングだが、アンプ原理が同じだけに音の骨格は類似している。

 TA-DA9000ESの音は、音離れが良く透明感がある、S/N感の非常に良い音だと僕は思う。明るさ、開放感、高解像度といったキーワードも頭をよぎる。現時点のTA-DA7000ESは、TA-DA9000ESほどには完成されていないが、解像度の高さ、高域のヌケの良さはそのまま引き継いでいる印象だ。特に金管系の鋭い音が素晴らしく良い。一方で特徴だった音離れの良さがやや影を潜めるほか、ボーカルが地味に聞こえる印象もある。

 とはいえ、基本骨格はしっかりしているだけに、これから1カ月以上続けるというチューニング次第で上位機種に迫る音へと変化していくだろう。量産出荷バージョンのデキに期待したい。

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