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魅力の色再現に設置性をプラス――映画のためのプロジェクター「TH-AE700」レビュー:劇場がある暮らし――Theater Style(2/3 ページ)

» 2004年10月01日 19時01分 公開
[本田雅一,ITmedia]

完成度がさらに上がった「シネマ1」モード

 見出しに挙げた「シネマ1」モードとは、冒頭でも述べたバーンスタイン氏が色調整を行ったモードで、AE500にも搭載されていた。筆者はたまたま、バーンスタイン氏が勤めているDVD制作会社を訪問した事があるが、AE500の時はバーンスタイン氏の指示に合わせて調整する作業を期間延長してまで取り組むほど、本人が色調整に“ハマッ”てしまったという。

 その結果が、昨年のAE500の色に対する好評価につながったわけだが、AE700ではもちろんバーンスタイン氏が同様に調整の指示を行っただけでなく、同じ制作会社にいるテレシネ変換技術者が何人もやってきて、AE500の時よりもずっと多くの様々なソースで、実に細かな調整を行ったという。現場に居合わせた制作会社のスタッフによると「あまりにノリが良過ぎて本当に作業が終わるのだろうか」と心配するほどだったらしい。

 色調整を行う技術者をカラーリストと言うが、彼らはフィルムのコマごとの色の違いまで見分けて調整を行う、かなり特殊な能力を持っている人たちだ。

photo 「シネマ1」モード

 現在の映画フィルムは品質が安定しているというが、少し前の映画になると同じロールでも位置によって色が異なるのだとか。これを電子化する時に、同じ設定でテレシネ変換していると色がバラバラになってしまう。また映画監督がイメージする“自分が撮影したハズの記憶色”に合わせて、シーンごとにディスカッションを繰り返しながら色を合わせる。

 こうした目を持つカラーリストが、自分で色を正確に合わせたDVDを用いて、意図した通りの絵柄になっているかをチェックしたのが「シネマ1」モードというわけだ。実際、完全遮光された部屋の中でAE500の映像と業務用基準モニタの映像を比較してみたが、能力による差(主にコントラストや色純度)こそあれ、ほぼ同等の絵作りに見えるのだ。

 AE700の「シネマ1」も、基本的にはそれと同じ(つまり基準モニタで見た絵に近い)だが、基礎体力部分の向上が効いたのか、より高い色純度まで出きっている印象だ。今回の評価では、ムーラン・ルージュ、マイノリティ・リポート、マトリックス・レボリューション、めぐり逢う時間たちの4本で視聴したが、タイプの異なるそれぞれの映画ながら、「シネマ1」だけで十分に満足できる画を堪能できた。

 ただし、好みによってはやや色温度が低めに感じる場合もあるかもしれない。また、遮光が不完全な場合は、より明るめの「シネマ3」の方が良い印象と感じるかもしれない。「シネマ2」はさらに明るく色温度も高めだが、ハイライトが強調されすぎて明度の高い部分の立体感が失われる。

photo 「シネマ2」モード
photo 「シネマ3」モード

誰もが簡単に色をカスタマイズ

 このほか、もっとも明るさが出せる「ダイナミック」、PCディスプレイに近い雰囲気の「ノーマル」、色温度の高い「ビデオ」といったプリセットモードが用意されるが、いずれも完全遮光の元ではハイライトが強調され過ぎる。遮光が不完全な状態で使いたい場合向けと考えた方がいいだろう。シネマモード以外では、個人的には「ナチュラル」というモードが良いと感じた。

photo 「ダイナミック」モード
photo 「ノーマル」モード
photo 「ビデオ」モード

 「ナチュラル」モードは「シネマ1」に近い色温度と絵作りだが、「シネマ1」がシャドウの沈みとディテールにこだわったトーンカーブになっているのに対して、「ナチュラル」はシャドウからハイライトまでバランスの良いトーンカーブ、アイリスの設定となっているようだ。PCなどを接続し、デジカメ写真のスライドショーを楽しむ時などには良いモードである。

photo 「ナチュラル」モード

 プリセットモードが優秀なため、初めてプロジェクターを使うユーザーでも良好な画質で楽しめるが、さらに本機にはプリセットモードを簡単にカスタマイズできる「シネマカラーマネジメント」機能が搭載されている。

photo 「シネマカラーマネジメント」機能の設定画面

 これまでの製品にも、RGBにCMY(シアン、マゼンタ、イエロー)を加えた6軸のカラーをパラメータ変更でカスタマイズする機能を持つものがあったが、かなりノウハウを蓄積しなければ、思い通りの色に調整するのは難しい。

 しかしAE700は、調整したい場面でDVDなどを一時停止(あるいは静止画を表示)し、調整したい色の部分をカーソル移動で選択。色相、明るさ、彩度を調整することができる。すると、指定した色を中心に周辺の色がシフトし、たとえば肌色全体が破綻なく好みの傾向へと変化する。こうした色補正を8つまで同時に登録し、ユーザー設定として保存しておける。操作が非常に簡単なため、マニアックな機能ながら手軽に挑戦できるところはいい。

photo AE500は2次元での補正(左)だったが、AE700のシネマカラーマネジメントは3次元で補正を行う(右)

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