さて、もうひとつの10ビット映像信号処理。Z3は大幅に画質が改善しているが、その背景には内部映像処理の10ビット化が大きく貢献している。
Z3はアナログ入力の信号を10ビットでA/Dコンバートするだけでなく、8ビット階調となるデジタル入力(HDMI端子経由)信号も10ビットに変換し、アナログ入力信号と同じ映像処理回路へと入れる仕組みになっている。
10ビットデジタル化された映像信号は、まず10ビット対応のスケーラで720p解像度にスケーリングされ、10ビット階調のままガンマ処理が行われる。ガンマだけでなく、スケーリング時も8ビットで行われる点がポイントだ。Z2ではこれらの処理がすべて8ビットで行われていたため、量子化ノイズが多く階調が失われたり、グラデーションの一部で色相が回転するといった現象が起こっていた。
より広い価格レンジで見れば各色12ビット処理を行っている製品もあるが、8ビットと10ビットの差はとりわけ大きく、大幅な画質の向上が期待されるところだ。
さて、実際に映像をスクリーンに投影してみると、Z2との間にある“あまりに大きな差”に驚く。ここまで松下電器、エプソンの両製品をレビューしてきたが、前モデルからの改善という意味では、もっとも大きな差がある。
Z2は緑の発色に強いクセがあった。たとえばグレースケールを表示させると、明度が高くなるごと徐々に緑が強くなる。RGB個別のガンマ調整が行えないこともあり、画質調整映像でゲインを調整してみてもピタリとはまる色を作ることはできなかった。Z2にはRGBごとのバイアス、ゲイン、ガンマを微調整できるサービスマンモードもあるが、それらを駆使してもきれいに調整しきることは難しい。合っているようでも、階調のどこかで色がシフトしてしまう。
ところがZ3では、非常にニュートラルなグレーバランスが実現されている。エプソンシネマフィルタを用いたエプソンのTW200Hも、ニュートラルグレーのグラデーションがきれいに出る機種だったが、色温度を変更すると内部8ビット処理のためか、階調ごとの色相バランスがやや崩れる傾向が見られた。その点、Z3は色温度を変化させても、各階調における色の調子があまり崩れない。
中でもプリセットの「クリエイティブシネマ」モードは、試聴したいずれの映像ソースでも大きな不満なく楽しめる。このモードは、ランプ光量がリアクトイメージ2、アイリスは32(中間位置)、色温度は低1(やや低め)に設定されており、それ以外の項目はデフォルト値のまま。Z2では階調が不足して平板な描写になっていた部分も、しっかりと階調が残る。
例によってムーランルージュ、マイノリティレポート、マトリックスレボリューションズ、めぐり逢う時間たちの4本を中心に試したが、今回は評価に使える時間に余裕があったため、スターウォーズ・エピソード4も映してみた。1本追加したのは、白い甲冑の兵士や宇宙船が多数登場するスターウォーズ・エピソード4でグレーバランスの良さを確認してみたかったためだ。
たとえばエピソード4の冒頭、宇宙船内をダースベイダーが詮索するシーンなど、白を基調にしたグレーが多用されるシーンでも、変な色が乗るといったこともなく自然に描写される。黒も十分に沈んでおり、コントラスト感も十分に高い。
プリセットモードを「ピュアシネマ」にすると、もう一段、色温度が下がり、光量は70%に固定される。ムーランルージュではこちらの方が良く見えたが、100インチ以上の投影では、明るいシーンでの力感が削がれる印象だ。好みでいずれかを選択すればいいが、より多くのソースで気持ちよく見えるのはクリエイティブシネマだろう。
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