前回聴いた試聴機は、基本的に海外で発売されていた「TA-DA5000ES」の構造を流用していた。おそらく、それでもチューニングで良いところまで持ってこれるとの自信があったからだろう。通常、このクラスでは1.6ミリ厚のパンチング加工で製作した底板と、1.6ミリ厚のプレス加工品の組み合わせで作られる。
しかし、このシャシーではDA9000ESが持っていたシャープで芯の強い音像は得られなかったようだ。「すでにプレスやパンチ用の金型も完成した後だったのですが、上司に掛け合い、“今後、良い音を生み出していくための勉強代として”、新たにパンチ加工のための金型を起こしてもらった」と佐藤氏。底板は1.6ミリから2ミリへと強化された。また、バックパネル(端子盤部分)も、音質に悪影響のある部分があったため、加工用金型を作り直した。
これにより、音質は大幅に底上げされたという。後述するが、実際の視聴でもハッキリわかるレベルでS/N感が上がっており、特に無音状態から出音に至るまでのスピード感、素直さ、ハッキリした音像の輪郭なども改善されている。
このほか、配線レイアウトや制振材料を増減などで振動をコントロールし、補強メンバーの強度や取り付け方法を再検討するなどして、細かな音のキャラクターを作り出した。メカニカル部分のチューニングによる改善は、「音質改善全体の50%程度にまで及ぶ」(佐藤氏)という。
佐藤氏は「自作アンプなどでは、部品のグレード変更や追加コンデンサなどで音をチューニングすることが多いですが、実は部品交換よりもメカニカルチューニングの方が質の変化は大きいものです。部品交換やコンデンサの追加などで、メカニカルな特性が変化し、結果的に音が変わっているという要素が大きい。それだけ、この部分のチューニングはアンプの質を高める上で重要です」と話す。
メカニカル部分と共に、音質に大きな影響を及ぼすのが電源の質だ。デジタルアンプの場合、スイッチング増幅を行うため、パワースイッチング素子に供給する電源の質が直接スピーカーを駆動する電気信号の質へと影響する。安定した定電圧を供給するだけでなく、電流変化に対する動特性の安定も品質向上に欠かせない。デジタルアンプでは見逃しがちな電源の品質は、デジタルアンプでも同様に品質を決める大きなファクターになっている。
「DA7000ESでは、DA9000ESでの電源設計の成功をそのまま持ち込むため、電源部の設計をDA9000ESから移植させようとしました。小型・軽量のスイッチング電源ではなく、十分な余裕を持ったアナログ電源を利用するというコンセプトはそのままです。もちろん、部品や能力は異なりますが、DA9000ESで成功した電源設計の長所をDA7000ESでも生かしたかったからです」。
前回視聴時に比べると、電源設計をDA7000ESに移植する際に追加されたコンデンサに関して専用品として音質設計をやり直し、一部は高グレードのものに交換した。さらに、回路図からはわからない電源基板パターンの引き直しも行っているという。
電源部分の改善では、音質改善全体の30%ほどを占める。また、完全鉛フリーの設計にすることで環境面はもちろん、音質にも良い影響が及ぼされているという(通常は、半田に多くの鉛が含まれる)。
最後に、DSPプログラムのリファインも行われている。DSPプログラムそのもののアルゴリズムやパラメータは同じだが、プログラミングレベルでの改善を重ねたことで、処理品質が前回視聴時のDA7000ES、あるいは上位機種のDA9000ESよりも改善されているという。これにより、音場プログラムを使うあらゆるモード、DSPでの信号デコードが必要になるすべての入力信号に対して音質改善が図られている。
ごく一部の映画で音場処理がおかしくなるバグがあった(前回視聴したDA7000ESの開発サンプル)のを修正し、正しく処理することが可能になった。
では、チューニングの結果、DA7000ESの音はどれほど変化したのか?
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