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HDパッケージソフトが自分のハイビジョンTVで楽しめない?――AACSの行方(3/3 ページ)

» 2005年04月20日 15時27分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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 ……と、少々先走ってしまったが、これはまだ決定事項ではない。昨年ぐらいから、ハリウッドの映画スタジオはデジタルインタフェースのみしか映像出力を許そうとしていない、という話は何度か耳にしていたが、正式に決まるのは著作権保護の枠組みの中でのことだ。

 そのような背景からAACS 0.9に注目していたが、HD映像の出力や再生の制御に関してのルールに関しては今回は何ら発表されなかったのだ。AACSの中でも、HD映像の出力制御がどのようなルールになるのかは、エンドユーザーにとって最大の関心事だろう。暗号化仕様のドラフトだけが先に発表された背景には、ハードウェアの開発を前へと進めたい事情があったと思われるが、言い換えれば一部分だけの発表でも前へと進めないほど、議論が分かれているとも推測できる。

AVマニアほど損をする?

 議論が紛糾する原因は二つあると考えられる。

 ひとつは「PCでの再生をどうするか」という点。ご存じのように、PC用ディスプレイのデジタル化は十分に進んでいるものの、そのほとんどはHDCPに対応していないため、暗号化が必須となった時点で再生は不可能になる。またPC上のソフトウェアで安全にデコードさせることが可能か? という問題もある。CPUでデコードを行うと、暗号が解除された映像データがPC内部を通過することになる。

 PCハードウェア自身がセキュアでなければ、それが許されることはないだろう。実際、現時点でもPCでハイビジョンを録画する際には、チューナボード上で暗号化を行い、暗号のデコードはボード上で行う必要がある。PC内部には一切の暗号化されていないハイビジョンデータは流すことができないわけだ。

 かつてPCをコピーマシンと呼んで毛嫌いしていたハリウッドだが、最近は重要な再生インフラとして重要視しており、どのような決着になるのかが注目される。とはいえ、PCでの再生はあくまでもオマケにしか過ぎない。

 最大の問題は既存のデジタルインタフェースを持たないハイビジョン対応テレビをどうするかだ。この問題はAV機器に多くの投資をしているユーザー……、いわゆる“マニア”ほど大きな影響を受ける。

 フラットパネルのハイビジョン対応テレビにいち早く飛びついたユーザーのほとんどは、デジタル端子を持たない製品のはずだ。また数百万円単位のプライスタグが付く三管プロジェクターのユーザーも、そのままではHD映像パッケージをHD品質で楽しむことはできない。

 単純に数の問題だけで言えば、HD映像パッケージが十分に魅力的なタイトルをそろえる頃には、ほとんどがHDMI端子を備えるようになっているだろう。しかしAV業界をユーザーサイドから推進してきたのは、ほかならぬAV機器の品質に敏感なマニア層だ。彼らを無視していては、市場立ち上げが難しくなる可能性もある。

納得できる決着を

 この問題に関して、これまであまり触れてこなかった(ごく一部の対談などでは話題にしていた)のは、AACSの議論がどのような方向に進むのか、全くわからなかったからだ。映画スタジオが主張しているとして、彼らの立場からすれば一概に否定することも難しい。

 読者の中には、果たしてアナログ出力の禁止がコピー防止にどれほど役立つのか? という疑問があるかもしれない。HD映像をアナログで伝送するにはコンポーネント映像端子もしくはD端子を用いる必要がある。ところがハイビジョンのコンポーネント信号を録画できる民生用機器は、かつて1度だけ、ビクターのW-VHSデッキが発売されただけだ。事実上、民生機器でのアナログコピーは不可能と考えていい。

 だがコンテンツホルダー側の主張は異なる。まず組織的に映像を盗みビジネスをしている集団があった場合、プロ用の映像制作機器を用いてコピーされる可能性はゼロではない。またコンポーネント信号をA/D変換し、PCなどに取り込んでから記録型の次世代光ディスクを作るといったことも、長い目で見れば起きる可能性もある。現時点の民生機器でコピーできないからといって、将来も安心というわけではない。

 お金に糸目を付けないのであれば、ハイエンドの三管プロジェクターにはデジタル入力ボードが提供される可能性はある。ただ、それにはかなりのコストがかかる上、すべてのメーカー製品がサポートされるわけでもないだろう。

 数百万円のハイエンドプロジェクターならまだしも、テレビをHDMI対応させるために買い換えたり、HDMI端子追加などのコストを支払うといった負担をユーザー強いるのは現実的ではない。かといって、規格としてのAACSができる前に販売されたテレビに関して、メーカーに責任を押しつけるのも筋としては違うだろう。

(初出時に「iScan HD+を用いることでHDCPで保護されたDVI信号をアナログ信号に変換できる」との記述がありましたが、これはHDCPで保護されていないコンテンツのみしか変換できません。訂正しお詫びいたします)

 結論が先送りされている理由が、映画スタジオ自身もアナログ出力を禁止することで次世代光ディスク普及の芽を摘む可能性があると自覚しているからと信じたい。だが、高品質のHDマスターを盗まれる可能性を、ハリウッドがみすみす見逃すかと言えば、それも考えにくい。

 個人的には、アナログへのHD映像出力禁止は避けられないと予想している。問題はそうなったときに、エンドユーザーに対して業界がどのような対応を取るかだろう。エンドユーザーのキモチを無視していては発展はできないのだから。

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