この“暗さ”という条件が、プラズマにとって追い風になるのです。
――と、いいますと?
麻倉氏: 従来型の情報を得るだけの“表示”用途なら、明るい環境でもいい。ですが、感動型コンテンツを暗い環境で“表現”するためには、自己発光のディスプレイが必要なのです。自己発光という方式は、発光しなければそこが黒レベルになる。ところが液晶のようなバックライト方式では、常時点灯しているため黒レベルがどうしても浮いてしまう。
映画「パニックルーム」の映像が分かりやすいのですが、暗い中で、黒人とジョディ・フォスターが戦う。こういうシーンで生きるのが自己発光のディスプレイなのです。そして現時点で入手できるテレビ向け自己発光型ディスプレイは2つしかありません。1つがブラウン管で、もう1つが“プラズマ”なのです。SEDも自己発光型として有望なのですが、まだ登場していませんしね。
感動のためにはなるべく大きい画面で見るのが重要なのです。閻魔帳「ハイビジョンの本質」でも述べましたが、臨場感は画面の大きさに比例します。30度という画角で適性な視聴距離で見るとなると、50〜55インチ以上が必要となる。その大きさになると、36型までしかないブラウン管では実現不可能なのです。そうなるとプラズマしかないというわけです。液晶テレビの大型化していますが、自己発光でないかぎり感動には遠いです。
――ただしプラズマは“表現”を阻害する問題も多いですよね。
麻倉氏: いままで述べたことは今後のディスプレイに求められる“必要条件”ではあるものの、“十分条件”でないところがミソ。つまり、自己発光で大画面という意味では消去法でプラズマしかないわけですが、だからといってそれだけで「プラズマが生き残る」という論理にはなりません。
プラズマは液晶に比べて「ノイズに関する問題」が非常に多い。そこをどう解決するかがプラズマの生き残る道だと思います。
プラズマは自己発光型なので黒は沈むはずですが、よく見るとプラズマの黒も浮いて見えるのです。稀ガスが爆発して紫外線を放出し、それが蛍光体を叩くことで発光するというのがプラズマの原理ですが、専門家に聞いたところ、その際に1秒間に6万回以上もプラズマ発光させるそうなんです。そのために種火がないと発光スピードが追いつかない。自己発光で黒レベルがしっかり確保できるはずなのに、プラズマ発光を迅速に行うための種火が常に点いているために実際は黒が浮いていたのです。
そのほか、黒の階調ノイズや擬似輪郭ノイズ、尾引ノイズ、緑蛍光体の残光など、ノイズに関する問題が多いです。それでも私が「プラズマは生き残る」と断言できるのは、近年、ノイズ削減への技術の進化が目覚しく、ものすごく効果的な対策がとられてきたからです。
――これからプラズマが生き残っていくためにやらなくてはいけないことはなんでしょうか。
麻倉氏: ひとつは「フルHD化への対応」ですね。放送はすべてのコンテンツがフルHD化するにはまだ時間がかかりそうですが、次世代DVDとしてフルHDのパッケージが出てくるという事実がすぐそこに迫っています。テレビ側も一刻も早くフルHD化に対応しなくてはいけません。横方向が1440しかないのに、凄い高画質などといってはいけません。
液晶テレビ陣営はすでに30〜40インチ台という主力サイズでフルHD対応製品を市場に投入しています。ですがプラズマは自己発光型というその構造上、フルHDに対応するため画素を小さくする(高解像度化を行う)と、プラズマの放電が安定しなかったり輝度が低くなるといった問題が発生します。
現在、フルHD対応のプラズマではLG電子の73V型が最小サイズですが、この画面サイズは現実的ではありません。やはり50V型でフルHDが必要。これからのコンテンツの“表現メディア”となるためには、フルHD化は必須です。もうひとつは階調再現のビット数を増やすことです。コントラスト比が3000:1ならば、少なくとも3000階調がなくてはいけません。
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