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注目すべきBBCの試み――テレビ局が提供するタイムシフト視聴西正(2/2 ページ)

» 2005年07月01日 11時12分 公開
[西正,ITmedia]
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 このため筆者は、おそらく対象となる番組がBBCのインハウス制作の番組に限っての話になるのではないかと推測している。韓国で一時期、ADSLが流行り出した頃に、放送番組をそのまま翌日にADSLで流すことが結構話題になり、同じことが日本では何故できないのかという議論が起こったものだが、韓国のケースでもハリウッド制作の作品とか国際的なスポーツイベントの放映は対象外とされていた。その点については、同じようなことになるのではないかと思われる。いくらBBCの実験だからといって、他国作品の著作権ルールまでが協力を惜しまないなどということは考えられないからである。

タイムシフトに関する権利処理

 ネット経由であることが問題なのではなく、7日間分のタイムシフトが認められることの方が難しいと述べた。つまり、今の放送局の権利処理ルールは、リアルタイムで放送が視聴されることを前提にした仕組みになっているので、その技術方式がネットであるとか放送であるかということは、むしろ枝葉末節の話でしかない。

 BBCの実験は、リアルタイムの放送が終った後、7日間まではユーザーが自由に視聴できるということだから、権利者としては、単純にギャラの話で言えば、タイムシフトOKの分をどうカウントしてくれるのかということが関心事になるだろう。IP放送を認めるとか、認めないとかいう話とは、ちょっとフェーズが違うのかもしれない。

 日本の放送局は、たとえ実験であっても、BBCと同じサービスに取り組むつもりはないようだ。そのためにサーバ型放送の規格策定に取り組んでいるわけであり、PCをベースにしては考えていない。

 BBCの試みは、わが国でトレソーラが何年か前に、トレソーラ専用のブラウザをダウンロードさせて、そのブラウザでないと受信できないようにした実験に似ている。あの実験はPCを端末に使うということで、著作権保護のために専用ブラウザを開発し、それが非常にコストアップ要因になったと聞いている。

 ところが、ユーザーから見ると、そのブラウザをダウンロードしても安全なのかどうかがよく分からなかったことがハードルになって、その段階でユーザーが10分の1に減ったと言われているし、そこから先に進んでサービスを利用する人もまたさらに10分の1に減ったということで、最初にページにアクセスした人が段々と一桁ずつ減っていく形になってしまった。このようなPC型で特定のブラウザに依存したサービスは、あまり広がらないという教訓を残した形になった。

 NHKと民放が目指しているのは、テレビという標準的な受信機を使うこと、すなわち、どこのメーカーの物でも電気店に行けば買える受信機を使ってサービスを提供することである。もちろん然るべき著作権管理も行う。なるべく囲い込み型ではなく、標準受信機のモデルでサービス展開をすることを考えている。

 サーバ型放送の場合には、単純にタイムシフトを行うだけでなく、メタデータによる編集を行うことも可能となっている。機器の進化の速さを勘案すれば、勝手メタデータのようなもので悪質な編集を行う不届き者が登場してくることは明らかである。そうしたアンダーグラウンドのサービスは、ネット経由で瞬く間に広がってしまい、あとから排除することは難しくなる。

 そうなることが明らかであるならば、放送局側が先手を取って、放送局の了解を得たメタデータによって、ユーザーフレンドリーな編集を可能にしようというのが、「サーバP」の考え方になっている。

 しかし、ここでもサーバ型という形でのタイムシフトを行うことについての著作権処理が必要になることは言うまでもない。そこがクリアされることが必須の条件である以上、NHKも民放も許諾を得るための努力を行っていくことになり、その結果として、それなりの料金テーブルのようなものができ上がっていくだろう。

 つまり、BBCの実験においても難関であろうと予想されるタイムシフトの権利処理については、わが国でも進められていくことは変わりがないということである。

日本でもそう遠くない時期に始まるIP方式の放送

 サーバ型放送の課題は、肝心の標準的な受信機が、広くあまねく普及するだけの価格で提供されるかどうかに尽きる。特にNHKは高価な受信機を購入できた人だけのためのサービスを展開するわけにはいかないので、受信機の価格は大問題である。

 地上波放送をIP方式で再送信することが認められるのも、ここ1、2年の間の話ではないかとさえ言われるようになってきた。ネットによる送信が認められることになれば、タイムシフトについての権利処理さえ済ませておけば、BBCの実験のような形でのサービス展開に切り替えることも可能であろう。

 ネットとテレビの融合は、もはや世界の大勢として進みつつある。日本は遅れているかのように言われることが多いが、著作権の取扱いに慎重なだけであって、それは、あくまでも知的財産を重んじるという正しいスタイルである。どういう経路を経ることになるにせよ、BBCに負けないだけの「ネットとテレビの融合」が日本でも実現することになるのは、もはや時間の問題だろう。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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