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ハイビジョンビデオカメラの本質麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(3/4 ページ)

» 2005年07月30日 20時30分 公開
[西坂真人,ITmedia]

撮影を“苦痛”から“楽しみ”に変えるハイビジョン

――話題となっているソニーのハイビジョンビデオカメラ「HDR-HC1」ですが、低迷する市場に一石を投じることはできるのでしょうか。

麻倉氏: HDR-HC1も、基本的には先ほど述べたような“イベントカメラ”を追求したものなのですが、ここまでの高画質が手軽に撮れると、今までのSD映像のビデオカメラとは違う用途、シチュエーションが出てくるのではないかと感じました。HDR-HC1の画期的なところは、SD映像と比べて精細度・情報量・臨場感・ナマっぽさで圧倒的に違う点です。今までのビデオカメラでは「映像を愛でる」とか「発見がある」ということはありませんでした。それがHDR-HC1で撮ったハイビジョン映像にはあるのです。

photo ハイビジョン撮影を可能にしながらも非常に小型軽量に仕上げたHDR-HC1

――“苦痛”だったビデオカメラ撮影が“楽しみ”になるのですね。

麻倉氏: そうです。これまで記録的意味合いが強かったビデオカメラが、表現する楽しみのツールになるのです。例えば、ハイビジョン映像を100インチ以上のプロジェクターや大画面テレビで観ると、子どもの肌のグラデーションがいかにキレイかが明確に分かるのです。そして、その映像のある一部分をキリトルとそれだけがアートになったりします。

 今までは、映像をアートにすることなどプロ的なノウハウが必要で、相当の技量がないと無理だったのですが、ハイビジョンだと映像にまつわる付加価値的な楽しみが、撮った人も観る人も非常に身近に感じることができるのです。アクティブな映像文化を創出する可能性をも秘めていると思います。

――撮影する側の意識も変わってきそうですね。

麻倉氏: 従来はイベントのときしか持ち出さなかったものが、映像がキレイでアート的な映像も簡単に撮れるため、自然と撮影する機会が増えていきます。そうなると、常に持ち歩いてそのときの気分に応じて動画を撮り貯めていくといった使い方をする人も増えるでしょう。そして、そういった素晴らしい素材が集まっていくと、今度はそれを編集してみたくなる。好きな音楽をBGMに入れたりして非常に見ごたえのあるコンテンツが完成するのです。

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 ハイビジョンのいいところは、高精細なので従来のようにズームで被写体を追わなくても、ヒキの映像でゆっくりパンするだけで、周囲の景色をいれつつ被写体もちゃんとキレイに撮れる点です。ハイビジョンではこのようにビデオ映像の撮り方も変わってくるのです。“記録”というSD映像の狭い世界から、ユーザーが自分で映像を創りだしていくという“高品位映像文化”というところにビデオカメラを高めていく可能性を秘めています。

――ハイビジョンカメラの今後の展開を予想してください。

麻倉氏: ハイビジョンのナマ撮りを普及させるためには、もっと新しいことを考えていかなけばいけないでしょうね。

 1つはカタチです。

 ビデオカメラの歴史はカタチの変化の歴史。冒頭にも述べたように、最初セパレート型で始まったビデオカメラは、やがて一体型となり、その次に1992年にシャープが液晶モニターをメインにした液晶ビューカムを提案。そこから、液晶モニターが撮影に便利ということで液晶モニター搭載が一般的となり、それから縦型・横型などバリエーションの変化はありましたが、ほぼずっと同じカタチで現在まできています。

 今回のHDR-HC1は横型ですが、携帯時の便利さからいえばコンパクトな縦型も必要ですね。それとともに、従来の延長線とは違ったハイビジョンらしいアプローチも必要でしょう。例えば、大口径レンズ採用してレンズを強調したデザインなと望みましょう。これは次のキヤノンに期待してもいいですね。

 もう1つはメディアです。

 今回のHDR-HC1は、従来のDVカメラのMiniDVテープが使えるという点が特徴です。多くの情報を記録できるMiniDVテープを使うことで、撮るときはHDVの最高画質で残し、そこから用途によって映像フォーマットを変えていくといったワンソースマルチユースを提案しています。これは、すでにプロの世界では当たり前になっていることです。

 ですが、ここで大きな問題となるのは、メディアがテープである点です。これは記録として後世に残すという点ではいいかもしてませんが、活用しづらいという点で将来性がありません。やはり、撮った映像を活用するという点ではディスクメディアの登場が不可欠です。8センチサイズのBlu-Ray Disc(BD)でデュアルレイヤーのものが登場すれば、ディスク1枚に1時間以上の撮影が可能になります。現在のDVDビデオカメラのようなスタイルで、ハイビジョン映像が撮影できる「BDハイビジョンビデオカメラ」が実現できるのです。

 例えば、今回のHDR-HC1ではテープなので、高画質編集を行う際にはPCを利用しないといけません。ですが、BDならBDレコーダーなどと組み合わせることで、PCレスで編集作業もできるようになります。

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