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サイズを超越した美音空間――オンキヨーINTEC「A-933」レビュー:上質な机上音楽空間のススメ(3/3 ページ)

» 2005年08月16日 16時02分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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 オンキヨーのオーディオ製品は、中音域における空気感や各楽器の描き分けが得意で、高域は耳への刺激が比較的柔らかという印象がある。本機の場合、高域の伸びが良く透明感が増している印象だが、基本的な中域から高域にかけての上質さのキャラクターは変わらない。

 しかし本機における低域の印象は従来のオンキヨーのイメージとは大きく異なる。量も力強さもさほど感じない、解像感も高くない、印象の薄い低音というのがオンキヨーの低価格機に共通するイメージだった。ところが、本機の出す低音はタイトかつパンチ力がある。特に立ち上がりのスピード感はすばらしく、しかも低音域における解像感もしっかりとある。その感覚はスピーカーの大小を取り替えても同じだ。

 さらにS/N感も非常にいい。小型筐体のオーディオシステムはシールドが甘く、聴感上のS/N感が悪い製品が多い。ところが、A-933は無音状態からバン! といきなり立ち上がる時など、S/Nが良いためいつも以上にダイナミックレンジが大きく聞こえる。総じて色づけは少なく、プレーヤーの良さをストレートに引き出してくれる印象だ。

 ボリュームをさらに上げてみると、わずかに残留ノイズは感じるものの、聴感上、さほど問題とは思えない程度に収まっている。おそらくデスクトップ上での利用では、気になることはないだろう。

 正直、予想以上の出来だった。たいていの場合、こうした“ハイコンポ”アンプは、同価格帯のフルサイズプリメインアンプには敵わず、やや割高な印象をぬぐえないものだが、A-933に関して言えばサイズに関係なく同価格帯における良い音のアンプとして紹介できる実力がある。

デスクトップで使うアンプとして見ると?

 こうしたサイズを超えた実力は、パワーアンプ部のデジタル化(PWM方式のスイッチング増幅)と、デジタル化により空いたスペースに2基のトロイダルトランスを用いたアナログ電源によるものだろう。またシャシーは望外に剛性が高く、それが低域の芯の強さにつながっているようだ。

 あえて本機に不足している部分を挙げるならば、それはアナログのプリアンプ部の質感だ。A-933は実に魅力的なパワーアンプを備えてはいるが、空気感や音が消え去る直前のニュアンスといった微妙な表現があっさりとしており、ピュアオーディオファンにとっては物足りないと感じるかも知れない。

 実際、本機に備わっている「MAIN IN」端子(内部のプリアンプ部をバイパスしてパワーアンプとして使うための端子)にプリアンプをつないでみると、より魅力的な雰囲気を伴う音が出てくる。とはいえ、この価格帯でそこまでを求めるのは酷だ。むしろおかしな味付けで音に色を付けないだけ良いと、ここではポジティブに捉えたい。

 ただ少々苦言を呈したい部分もある。それはヘッドフォン出力の質だ。本機のヘッドフォン出力は標準サイズのフォンジャックで、その質もミニコンポとしては標準的なもの。しかし、スピーカーへの出力時にこれだけの高品質を実現しているのと比べると、あまりにも落差が激しい。音域バランスが悪く(やや高域にピークがあり、低域は細め)、情報量やS/Nも良くない。

 デスクトップ上で使っていると、時間帯によってはヘッドフォンを使いたい時も多いだろうが、質にこだわるならば別途、ヘッドフォンアンプの導入を検討した方がいい。それ以外には大きな不満がないだけに、やや残念な点ではある。

 なお下位モデルのA-905FXが気になる読者もいることだろう。A-905FXも本機と基本的には同じ仕組みのパワーアンプ部が使われている(電源ユニットは異なる)。駆動力も高いが、音の傾向はやや異なるようだ。上記でA-933の音がややあっさりしていると書いたが、あくまでもフルサイズのピュアオーディオアンプと比較した場合の話で、空気感や柔らかさを感じさせる部分もたぶんにある。

 しかしA-905FXは、それよりも抜けが良く明るく乾いた音だ。ロック系の音を気持ちよくというなら、A-905FXの方が合うかもしれないが、ウェットなボーカルものはA-933の方が雰囲気が出る。もちろん音のクオリティ、筐体の仕上げといった全体の質感はA-933の方が価格なりには上。とはいえ、A-905FXは実勢価格で約2万円も安く、さらに横幅もコンパクト。絶対的な質ではA-933だが、コストパフォーマンスで考えればA-905FXを同時に検討するのもいいだろう(A-905FXの最新価格はこちら)。

 いずれにせよコンパクトなアンプ単体を探すとき、オンキヨーのデジタルアンプ2製品が検討の候補から外せない品であることは間違いない。


試聴環境
プレーヤー ソニー「SCD-XA777ES」
スピーカー ALR/Jordan「Entry S」
スピーカーケーブル Belden「Studio 727 MK2」
アナログインターコネクト LINN「ブラックインターコネクトケーブル」
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