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衛星による地デジ再送信の「論点」西正(2/2 ページ)

» 2005年09月01日 13時06分 公開
[西正,ITmedia]
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 要は、「地上波の放送番組の視聴にお金がかかる」のではなく、「視聴するための設備を維持する」のにお金がかかるということである。この点については、衛星を使っても、IP方式を使っても、もしくは今まで通り電波で受信していても、同じことなのである。たまたま、そうした対策が必要なエリアが変わるだけと理解すべきだろう。

 また、スカパー!のアンテナとチューナーについては既にレンタル制度が始まっており、それを使えば、レンタル料が月に315円、基本料が月に410円である。従来の共聴設備に支払っている金額とほぼ同水準だ。スカパー!としてはCATVのボックスよりは安いという自負もあるようだ。階層伝送技術を使うことで増える負担部分については、国が持つのか、自治体が持つのか、あるいは地元の放送局が持つのか、視聴者が持つのかといったことは決まっていない。

 ただ、条件不利地域に確実に地上波放送を届けることを最優先に考えるとすれば、スカパー!・JSATによる衛星を使った再送信が最も有効な方策であることは疑いようがない。

H.264とデータ放送の問題

 圧縮技術として、H.264を使うことについては、地上波局側にも若干の抵抗感がある。これもIP方式による場合と同じことなのだが、H.264を使うと、既に放送局に与えられている6Mbpsの帯域が余るのではないかという議論があるからだ。

 基幹放送である地上波放送に対し、新たな参入を認めることが正しい選択かどうかは大いに疑問だが、少なくともその余地を作ってしまいかねないことは確かである。だからと言って、MPEG2にこだわり続けることが許容されるのかと言えば、それも難しくなってきていることは事実だ。

 この辺りは総務省の情報通信政策における考え方の問題とも言える。安易な規制緩和を行うことが良いかどうかは別にして、視聴者側のコストを最小限に抑えることが肝心なポイントになるのではないだろうか。

 さらに地上波局としては、地デジの再送信を行うのであれば、HD画質の映像を送るだけでなく、データ放送の再送信も必須であると考えている。

 その点について、スカパー!・JSATとしては、DVB方式を用いれば08年からの再送信は可能であるとしている。世界的に見ればDVB(Digital Video Broadcasting)方式が公開標準規格であり、実際に主流になっているが、日本ではこれまでISDB(Integrated Services Digital Broadcasting)という日本独自規格を採用。データ放送にはBMLという言語を使い、B-CASという、これまた日本独自の限定受信システムを採用してきた経緯がある。

 うがった見方をすれば、ここにも新規参入を拒否する姿勢が見え隠れするのだが、総務省の政策として、基幹放送たる地上波放送は既存の事業者に責任をもって任せるというスタンスで臨めば済むことであろう。

 地上波局の一部からは、単純に英国のBスカイBが用いている手法をそのまま持ってきただけだとの批判もあるようだが、仮にそうであったとしても、2011年に向かってカウントダウンが始まった以上、低コストで条件不利地域をカバーしていくことが優先されるべきだろう。

 IP方式の場合には著作権問題の解消という課題が残るが、衛星の場合は単純に今と同じRFなので、その点を考えても衛星という選択肢は無視できない。

 衛星による再送信も、IP方式による再送信も、もともと既存の放送事業者のビジネス領域を侵食するために検討されているわけではない。中継局を建てていたのでは採算が取れないという事情を勘案した上で、世界的な潮流にも巧みに乗りながら、地上波放送のデジタル化を成し遂げようというのが本来の趣旨である。あまり警戒感ばかりを見せていると「それなら全部、自力でやって下さい」ということになり、一部地域の視聴世帯が迷惑を被ることになりかねない。

 それだけは絶対に避けなければならないことである。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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