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ソニーの新経営戦略に思うこと(3/4 ページ)

» 2005年09月29日 03時00分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 テレビ事業の不振も過去数年間の戦略ミスが招いたものだろう。早くから固定画素デバイスへの移行を見据え、映像処理技術とデバイスの開発に力を注いできたソニーは、デジタル時代になっても信号処理分野でのアドバンテージは保っている。ところが映像デバイス自身となると、SXRDにこそ他社を圧倒する強みを感じられるものの、肝心のフラットパネルディスプレイデバイスで完全に出遅れてしまった。

 そうこうしているうちに固定画素ディスプレイ向けのデジタル信号処理技術もこなれ、米国西海岸の新興半導体メーカーが映像処理チップの分野で大攻勢をかける。こうした新興半導体メーカーの製品が、他社に安価にばらまかれるようになれば、せっかく先行していた技術も、追い抜かれはしないにしても(技術的にはともあれ、エンドユーザーの視点から見ると)肉薄されてしまう。

 デジタル化されたが故の、アナログでもメカでもない技術をベースしているがために起こる現象とも言えるだろう。これはもちろん、ソニーだけが抱える問題ではない。しかし、数ある家電メーカーの中でも、ソニーがもっとも悩める企業だ。

新しい“ものづくりのソニー”を

 “消費者の指向性の変化”、“デジタル化による先行投資回収の難しさ”といった変化に対して、いったいソニーはどのような回答を出すのか。その答えはまだハッキリとは出ていない。ここにややもどかしさを感じざるを得ない。

 ソニーは米国で展開していた「like no other」というキャッチフレーズを、日本以外のワールドワイドで展開中だ。これはすなわち、“ユニークなものづくりをするソニー”という企業イメージを、再び構築しようという意欲の表れだと捉えている。問題はどこにユニークさを求めるかだ。

 新経営戦略の中ではCellのデジタルAVへの応用を徹底的に行うため、開発センターを設置することや、ミニチュアライズ(小型化)技術を生かしたモバイル環境での娯楽追求や有機ELへの注力などについても触れられている。

 だが有機ELテレビの実用化は、大型化という製造技術面でのテーマ以外に、高輝度化や長寿命化といった“運と時間”に強く依存する材料探しの側面もあり、なかなか計画的に開発を進めるのは難しい。すっかり話を聞かなくなってしまったFEDと同じようにならないようにしてほしい。

 モバイルエンターテイメントに関しては、モノの力だけで売れる時代ではないだろう。サービスとソフトウェアの開発力や市場を創出するマーケティング能力が試される分野で、どこまでソニーが強みを発揮できるのか。

 唯一、(「それが可能なのであれば」という前提だが)強みとしてある程度は競争力として生かされるかもしれないのがCellの応用ノウハウだろう。

 Cellは半導体単体として評価される事が多いが、Cell自身の能力が高くとも、あるいはCellを製造する半導体技術に優れていようとも、今の時代には大きな強みとはなりにくい。それはデジタル時代の宿命だ。

 Cellの強みがあるとすれば、それは自社で設計し、自社で製造し、自社のノウハウをソフトウェアとして実装出来ること。すべてが手の内にあり、制御可能という点だろう。スケーラブルなCellのアーキテクチャーは、その上にしっかりと積み重ねて来たノウハウを実装すれば、様々な形態に将来の製品へと生かせるかもしれない。

 ただしそのためには、ソニー全体がCellに対して理解を示し、そこに価値を創造しようと一丸となる必要がある。新経営陣のリーダーシップを示すひとつのバロメーターになるかもしれない。

 とはいえ、それが新しい”ものづくりのソニー”を復活させるのかと言えば、筆者自身、そうは思えない。やや感覚的な話にはなるが、ソニーは自らのブランドを憧れの対象としてキッチリと再構築しなければならない。

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