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「iPod課金」――実現したら1台あたり400円プラス?

» 2005年09月30日 16時27分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

 文化庁文化審議会著作権分科会 法制問題小委員会が9月30日に行われ、著作権分科会へ提出された中間報告書(「審議の経過(案)」)について各論点の再整理が行われた。今回の小委員会では、日本音楽著作権協会らが私的録音によって著作権者・著作隣接権者の被ることが想定される経済的な影響を試算して報告した。

 中間報告書についてはパブリックコメントの募集が行われおり、9月30日現在に寄せられている意見総数は167件。募集締め切りにはまだ達していないが(締め切りは10月7日)、私的録音録画制度の拡大問題、いわゆる「iPod課金」の問題についても、多くの意見が寄せられているという。

 問題点の再整理については、これまでの議論をたたき台に細部について意見交換が行われたにすぎなかったが、注目を集めたのが、日本音楽著作権協会と日本芸能実演家団体協議会、日本レコード協会の3団体が提出した「ハードディスク内蔵型録音機器等による私的録音から著作権者・著作隣接権者が受ける経済的な影響」と題された資料だ。

 この資料はiPodのデジタルオーディオプレーヤーが著作権法第30条1項の適用を受けない(複製権の許諾を新たに必要とする利用形態であると仮定する)、あるいは第30条2項の適用を受けた(私的録音補償金制度の対象に含む)ケースを想定し、どれだけの経済的な影響が著作権者・著作隣接権者に発生するかを試算したもので、前者の場合には約485億円、後者の場合には約18億円の経済的な影響が発生するとしている。

 その提出された資料による内訳は以下の通り。

・著作権法第30条1項の適用を受けない場合(複製権の許諾を新たに必要とする利用形態であると仮定した場合)

(1)著作権者への経済的影響

 8.1円(JASRAC使用料規定による、演奏時間5分までの1曲の録音使用料)×260.3曲(iPodなどに収納されている楽曲数平均 ※音楽関係7団体の調査による)×535万台(2002年〜2005年 デジタルオーディオプレーヤー出荷台数見込み、同上)×1.05(消費税)=118億4410万5525円(約118億円)

(2)著作隣接権者への経済的影響

 邦版平均原盤印税率を22.68円(※2 録音使用料相当額)、洋版平均原盤印税率を31.73円(※3 録音使用料相当額)、HDDに収納されている260.3曲のうち、邦版と洋版の比率は73:27で、曲数にすると190曲対70.3曲(音楽関係7団体の調査による)と仮定すると、

  • 邦版 22.68円×190曲×535万台×1.05=242億693万1000円
  • 洋版 31.73円×70.3曲×535万台×1.05=125億3050万2232円

 となり、邦版と洋版を加算した、著作隣接権者がうける経済的は影響は367億3743万3232円(約367億円)と推測される。これに(1)で試算した著作権者への経済的影響を加算すると485億8153万8757円(約485億円)となる。

※2 著作隣接権者の場合には公表された録音使用料が定められていないので、一般的な原盤印税率(16.8%)と著作権使用料率(6%)の比率を求め、それに8.1円を乗算したもの

※3 洋版の一般的な原盤印税率(23.5%)と著作権使用料率(6%)の比率を求め、それに8.1円を乗算したもの

・著作権法第30条2項の適用を受けた場合(デジタルオーディオプレーヤーが私的録音録画補償金の対象に含まれると仮定した場合)

 私的録音録画補償金の対象に含まれるとする仮定では、現行法では機器と媒体が個別に指定されていることからHDDタイプとフラッシュメモリタイプを個別に計算したうえで、機器の金額を機器分を80%、媒体分を20%と分けて仮定している。

 HDDタイプの平均小売価格を3万1803円(※4)とした場合、機器本体の補償金相当額はカタログ価格×機器分の按分率×65%×2%となり、330.7円。媒体の補償金相当額はカタログ価格×機器分の按分率×50%×3%となり、95.4円。両社を合計すると、HDDタイプの補償金単価は426.1円と求められる。フラッシュメモリについては平均価格を1万6158円(※5)とし、同様の方法で補償金単価を求めると216.5円となる。

 報告書では533万台というデジタルオーディオプレーヤーの出荷見込み数のうち、53%をHDDタイプ、のこりの47%をフラッシュメモリタイプを仮定しており、それぞれの補償金単価を台数にかけると次のようになる。

  • HDDタイプ 426.1円×535万台×0.53×1.05=12億6861万6878円
  • フラッシュメモリタイプ 216.5円×535万台×0.47×1.05=5億7160万8713円
  • 合計 12億6861万6878円+5億7160万8713円=18億4022万5591円

※4、5 BCN総研調べによる国内シェア上位3社の商品を抜粋、価格.comによる6月14日時点の平均価格を平均して集計。計算対象の機種はHDDタイプがiPod/iPod Photo(40Gバイト、60Gバイト)/iPod mini(4Gバイト、6Gバイト)/iPod U2 Edition、ソニー NW-1/2/3/5、リオ・ジャパン Rio Carbon。フラッシュメモリタイプがiPod Shuffle(512Mバイト、1Gバイト)、ソニー NW-E407(512Mバイト、1Gバイト)/NW-E507 1Gバイト、リオ・ジャパン Rio Su10(512Mバイト)/Su35(256Mバイト)/Su70(512Mバイト)

 提出された資料は「速報版」とされるもので、あくまで暫定的な資料として提出されたものだが、出席者からは多くの反応が見られた。JEITAの関係者は「速報版ではなく、正式な資料として提出された時点で対応を検討したい」としながらも、「メーカーはあくまでもサービス提供者の要件に即した機器を製造しているにすぎない」と自らの立場を訴える。

 出席の委員も「レンタル導入時に、利用者がコピーをすることは前提として議論されていたはず。(私的録音録画制度の拡大は)レンタルの貸与権とあわせて2重の負担になってしまう」「PC向けの音楽配信についても、ポータブルプレーヤーへの転送までを前提としたサービスとなっており、権利者もそれを理解しているはずだ」と制度の拡大を求めて“経済的影響”の数値を持ち出した音楽関係団体らへ疑問を投げかけた。

 日本芸能実演家団体協議会の椎名和夫理事は「MDからデジタルオーディオプレーヤーへのシフトが現実に起こっているのに、手を打たずに補償金がゼロになってしまうのは困る」と、これまでの主張を重ねるとともに、「極端な意見ですが」と前置きしながらも「PCを介した録音やコピーができなくなれば問題はなくなる」とも述べた。

 こうした音楽関係団体らの主張について、ある委員は手厳しく、しかし本質を突いた意見を述べた。「sarah(私的録音補償金管理協会:私的録音補償金の分配業務を行う)の収入が落ちるのはとにかく、著作権者への配分が変わらなければいいのでは?」。

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