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音と歪みの、いい関係小寺信良(1/4 ページ)

» 2005年10月03日 13時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 音楽を聴くときのことを考えてみると、「歪み」というのはあってはならない、とされている。ハイエンドなオーディオ装置だけではなくiPodのようなポータブル機器でも、音の歪みは極力排除すべきだ。

 だが音楽クリエイティブシーンに目を向けると、実は音の歪みというのはそれほど嫌悪すべき対象ではない。むしろそれを上手く利用することで、表現力を増したり、ダイナミズムを生むためのテクニックとして利用されている。

 普段我々音楽リスナーは、ただ「聴く」という消極的アプローチしかやっていないわけだが、歪みに対しての認識を改めることで、音楽をもっと楽しめるようになるのではないだろうか。

 音の歪みと一言で言うが、実際には広義の意味と狭義の意味があると思われる。例えばあるオーディオ装置に、一定の波形を入力したとしよう。入力した波形とまったく同じものが出力から出てくれば、それは歪みがない、と言える。

 オーディオアンプは波形を変えることなく増幅できるのが理想的なわけだが、実際にはアンプを別の機種に変えただけで音が変わるというのは、よくあることだ。音が変わるということは、すなわち入力波形に対して違うものが出ている、あるいは出ていた、ということである。

 オリジナルと違う何か、それは何らかの倍音かもしれないし、ノイズかもしれないが、とにかく入力と違う出力が出てきたと言うことは、歪んでいるわけだ。歪みという言葉を広い意味で捉えれば、オリジナルとは違ったモノが出てくる状態である、と定義できるだろう。

 だが歪みには、「結果的に歪んじゃった」と言う消極的な現象のほかに、もっと積極的に「歪ませる」という次元の使い方も存在する。ロック系ギターなどのディストーションは、音の歪みを積極的に利用して表現、あるいは芸術の域にまで高めた例として挙げることができる。こういう積極性を持った歪みというのは、狭い意味での歪みと言うことができるだろう。

 芸術的な音の歪みというのを一度しっかりと飲み込んでおけば、オーディオで悪とされる歪みに対してもきちんと区別して考えられるようになるだろう。そういう思いから筆者は、国内でもっとも音の歪みに関して詳しいと思われる会社に取材を申し込んだ。

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