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開発者が語る「SED」の“今”と“これから”CEATEC JAPAN 2005インタビュー(3/3 ページ)

» 2005年10月05日 23時59分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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――当初のSEDはキヤノンの技術という印象が強かったのですが、現在はテレビというセット商品に近づいた事もあり、東芝の色も徐々に濃くなってきました。それぞれについて、どちらの持っている技術というわけではないでしょうが、東芝はSED開発の中でどのような役割を担っているのでしょう。

森氏: SEDの開発を成功させるには、SEDそのものの基礎研究によるノウハウの蓄積が必要なのは当然で、これはキヤノンが長い間、研究開発を続けてきました。加えてブラウン管の技術、世界的にも通用する最先端の半導体プロセス技術、エンドユーザー向けテレビとしての絵作り。これらすべてのノウハウを持っている企業は、探してみると実は東芝しかないんです。キヤノンが、東芝が、という話ではなく、とにかく持ち寄れる技術はなんでも持ち寄りました。だからこそ開発に成功したのです。

――とはいえ、東芝も巨大な組織です。ブラウン管製造、半導体製造、テレビ開発。これらは別々の会社が担っていますから、組織的にはそれほど簡単なものではないですよね?

森氏: これはもう執念ですよ。SEDに関しては、キヤノン側も御手洗社長以下、みんなが社運をかけて取り組んでくれていますし、東芝側の責任者である福間(東芝 ディスプレイ・部品材料統括 統括責任者の福間和則氏)が、グループ内を駆けめぐって社内の必要な人的リソースをSEDに集めました。

――つまり、巨大組織の東芝ではあるが、横の連携もうまく取れる文化的な土壌があったということでしょうか?

森氏: 実際には縦割り組織の壁はものすごく厚く、東芝グループ内の組織を横断して、各分野のトップクラスの技術者を引っ張ってくるのは大変な事でした。単純に社内的な権力といったものではなく、社内のキーマンを説得してまわるエネルギー。何度も何度も足を運び、現場の責任者を動かして必要な人材を集めました。加えて、福間の技術的な目利きのセンスが良かった。

――目利きというと、技術の善し悪しを判断する目ということでしょうか?

森氏: そうです。絶対に必要な技術、必要な人材。逆に不要な技術。そのあたりを判断する目が良かったのだと思います。本格的な開発スタートの前に、必要な人材や社内の技術を集めなければならない。ここで失敗していたら、SEDは完成しなかった、あるいは完成が遅れていたかもしれません。しかし、今回は見事にハマりました。

――実にいい話ばかりなのですが(笑)、実際にはいろいろ苦労もあったでしょう。製品化に向けて心配事はありませんか?

森氏: そうですね。来年春発売というだけで、まだ発売日は決まっていません。早く何月何日といった具体的な日付を言えるようにしたい。またエンドユーザーに、きちんとSEDの良さが評価してもらえるかという不安も多少あります。本当に良いものを評価できる世の中の空気のようなものが出てくるといいですね。

――SEDはブラウン管に近く、とても自然な画質が特徴ですが、最近は液晶パネルの画質に慣れたユーザーが増えていますよね。ブラウン管らしい自然な階調感や色彩感は、今の液晶テレビのデフォルト画質(たいていは派手)に慣れていると、とても地味に見えるかもしれません。心配とはそうしたユーザーの“慣れ”の部分でしょうか?

森氏: 我々から「そうです」とはなかなか言えないのですが、ブラウン管の画質を知らない、あるいは忘れてしまった人たちに、この良さを評価してもらえるだろうか? というキモチは確かにあります。

 しかし、派手で見栄えの良い画質より、自然な画質の方が長く見ているうちに良いと感じられるようになると思います。SEDが顧客から「本当に良いものだ」と思ってもらえる永続的なブランドになるためには、スグに飽きる見栄えではなく、購入して長い間使い続ける中で「ああ、やっぱりSEDで良かった」と思われるものにしなければならないでしょう。そうした意味で、我々はSEDに自身と誇りを持っていますし、時間をかけて評価してもらえる自信も持っています。

photo ブラウン管らしい自然な階調感や色彩感がSEDの持ち味
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