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勝手に始める撮影術「波と水平線とイルカの関係」勝手に連載!海で使うIT(6/6 ページ)

» 2005年10月08日 01時10分 公開
[長浜和也,ITmedia]
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日々変わる港の風景は常に撮影すべし

 ここまでは風景写真的船上撮影術であったが、ここからは「航海資料」としての撮影術である。古き良き時代の航海では、初めて訪れる島や港を精細な絵で記録していたという。当時の航海長の重要なスキルとして「絵がうまい」ことも求められていたらしい。現代は絵を書く代わりに写真を撮る。GPS全盛時代の航海でも、入港口を目で確認できる安心感は何物にも替えがたい。

 航海では各港の入港針路や岸壁の状況をまとめた文献(日本水路協会のプレジャーボート・小型船用港湾案内など)を参考に入港するが、なにぶん、そこに収められている情報は古い。港は改修工事で変わり、港が変わらなくともプレジャーボードが接岸できる場所は頻繁に移動する。そういうわけで、立ち寄る港のデータはその都度撮影して収集しておくといい。

 港のデータとして押さえておきたいのが、入港口の風景とプレジャーボートが接岸できる岸壁の状況。入港口の風景はできれば遠景がいい。アプローチ針路に到達した時点で1枚撮影しておこう。このとき注意したいは見張りを厳にしておくこと。入港口は船の行き交いが多いところなので、ほかの航行を阻害しないようにしたい。そういう意味でも離れたところから撮影するのが安全だ。たいだい沿岸から2海里沖離れていれば、遠景も撮れるし出入りの船の邪魔にもならない(それでも見張りは怠らないこと)。

三宅島坪田漁港を、防波堤白灯台を2海里沖から磁方位330度にみる。2005年9月19日撮影。写真右には三池の集落も写っている。撮影したら目標方位と距離を記録しておくこと。GPSでポジションをマークしておくと確実だ。

 入港して係留したら、係留した岸壁の状況を記録しておきたい。必要な情報は「係留場所」「係留岸壁に何艇泊められるか」「岸壁の高さ」「地元船の係留状況」など。そのため係留した岸壁が全部見渡せる場所から撮影するのが望ましい。

坪田漁港西船溜まり岸壁東端から西側を撮影したカット(上)と、坪田漁港西端スロープ上から東側を撮影したカット(下)。それぞれ2005年9月20日の満潮2時間後に撮影。このように自分の船が小さくなっても全景が入るようにしておきたい。入港したときの風景に近いカットが撮れればベストだ

 ちなみに、ここで紹介した三宅島坪田漁港は舵社のハーバーガイドで、法面保護の白い壁面が顕著な目標として紹介されているが、現状では灰色に変色して遠くからの識別は容易でない。また、坪田漁港の入港口東海岸はサーフポイントになっていてサーファーが遊弋している場合がある。前方見張りは厳にしておきたい。

 また、坪田漁港には入港口の東と西に船溜まりがあるが、東船溜まりは火山活動で沈下した岸壁のかさ上げ工事中でプレジャーボートは原則係留禁止。西船溜まりも、写真でがらんと空いている中段岸壁は沈下の影響で満潮時に海水面ギリギリになるため係留に適さない。ヨットは入港して奥にあるスロープ近くの(写真では手前の)背の高い岸壁に係留する。写真で係留しているヨットは26フィートだがその後ろ1艇分は係留可能。それ以上スロープに近づくと水深が不足する可能性あるので測深儀で十分確認した上で係留したい。

 なお、ここで掲載した情報は参考資料であって、航海の安全を保障するものではありません。各自が入港する場合は正式な海図に基づいて操船してください。この情報を基に事故や損失が発生しても当方は一切の責任を負いません

 以上、「風景写真」「資料写真」それぞれの「船上撮影」について私の体験に基づいて紹介してきた。冒頭でも述べたように、防水コンパクトデジカメが登場したおかげで、ハードウェア、コスト、スキルのハードルは格段に低くなった。ぜひ、多くのスキッパーに「海上の写真撮影」を楽しんでもらいたい。奇遇にもヨット専門誌「KAZI」でマリンフォトコンテストが行われている。これを機会に、プレジャーボートでも「写真」というカテゴリー一般的になって、遊びの幅(と初心者の窓口)が一段と広がることを期待したい(海中写真を撮りたい、という動機でダイビングを始める人が多いと聞くし)。

 おっと、最後に大事なことを。撮影時にはくれぐれも安全確保と見張りを怠りなく。シャッターチャンスよりも自船と他船の安全が大事。とくに沿岸近くや航行船舶が多いところでは、撮影者とヘルムマンは別にしておこう。そのとき、警告なしに急転舵をしないのはヘルムマンの常識である。

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