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見えてきた次世代DVDの正体小寺信良(2/3 ページ)

» 2005年10月11日 08時45分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 その理由は3つ。まずHD解像度そのものが問題である。従来のSDサイズ、あるいはそれ以下の画像サイズでは、例えそれが流通してしまっても、オリジナルのハイレゾリューションマスターの資産的価値はあまり下がらない。だがHD解像度となると、おそらくそれを超える解像度の表示デバイスは当分出てこないこと、また高解像度と呼ぶに十分なスペックを備えていることもあって、もしこれが流出してしまったら、マスターの資産価値が確実に下がってしまう。

 2番目が、コンテンツの性格の問題である。映像は音楽と違って、作品を鑑賞するときに目が離せない。しかもHD解像度のファイルがモバイルで必要とされるのは、まだ当分先だろう。また音楽が何度も反芻して楽しめることに対して、映像作品はストーリーとその表現で骨子が成り立っているため、同じ映画を毎日2週間見続けるというケースは考えにくい。つまり反芻スパンが非常に長いコンテンツであるため、ファイルベースで保持しておく必然性が薄い。

 3番目は、いったん筆者の持論をご紹介してからの方がいいだろう。筆者はそのネットワーク配信モデルを、定額制のVODが担うのではないかと考えている。以前コラムでもご紹介したが、「オンデマンドTV」のような1カ月定額で映画見放題のようなサービスであれば、わざわざファイルを手元に置いておく必要がないのである。

 これはインターネットの黎明期と現在を比較してみるとわかりやすい。インターネット黎明期は、定額でオンライン接続していられる時間が短かったため、皆コンテンツを一生懸命ローカルのHDDにコピーしていた。だが定額常時接続当たり前の時代になれば、ローカルにコンテンツを保存するなど無駄である。最近はブックマークの保存すら止めて、必要なときにサーチエンジンで検索する人も多いだろう。

 つまりいつでもアクセスできれば、保存する必要などないのである。ましてやダウンロードを待つことや、ダウンロードするための機器、例えばPCや専用デバイスを用意することや、それに対しての補償金制度などでまたモメることなどを考えたら、見たいときにすぐ始まるVODのほうがアクセシビリティが高い。そしてVODという技術も方法論も会社も、現存する。これが第3の理由だ。

ユーザーの利便性こそが鍵

 さらに共通項を上げていこう。筆者はセミナーの持論の中で、次世代DVDの優劣を決める条件をいくつか提示した。その中の1つが、リージョンコードの廃止である。骨子としては、ユーザーの利便性を損なうほどの制限が課せられた方は、消費者の支持を失う可能性が高いと示唆したのであるが、同じくカンファレンスの中でも、HD DVDにはリージョンプレイバックコントロールは入らないだろうという話が出ている。

 予想外だったのは、セキュアであればコピーを許容するという動きも出てきていることだ。この話は、マイクロソフトとインテルがHD DVD支持に回った理由の1つとしてすでに上げられていたが、それに反発してBlu-ray陣営のデルとHPが、誤った情報を流しているとして非難したため、いったいどこまでが本当の話なのかわからなくなっていた。

 筆者もさすがにそこまでは許されないだろうと思っていたのだが、今回のカンファレンスではっきり「Managed Copy」という考え方が示されたことで、セキュアなコピーを容認する方向であることが確認されたことになる。

 これによって今までダメだろうとあきらめていた部分、例えばマストではないにしてもポータブルAV市場がセルコンテンツの中で生きていくことになるかもしれないし、ホームネットワークの存在意義も新たに生まれるかもしれない。消費者への利便性だけでなく、映像産業全体へ与える影響が非常に大きい部分だ。

 また今回、両陣営とも今年1月CESのときにはまったく話が出なかった8センチメディアの存在が明らかになった。物理規格のロードマップによれば、HD DVDでは今年2月にROM規格のVer1.1で8センチメディアが追加されたようだ。

 ご存じのようにDVDの8センチメディアは、ビデオカメラの記録用途として昨年から今年にかけてブレイクしつつある。だがHD DVDはROM規格なので、用途としては別だ。おそらくこれは、今年のCESで発表された子供向け8センチメディア、「Mini-DVD」をHD化するという話なのかもしれない。

 同様にBlu-ray陣営のパネルディスカッションでも、8センチメディアの話題が出ている。もともとBlu-rayはリライタブルメディアからスタートしているだけに、記録メディアとしての展開として、ビデオカメラを想定しているようだ。

 具体的な話はまだないものの、現在DVDカメラを作っているのは、日立、ソニー、キヤノンの3社しかない。そういう陣営の事情からもBlu-rayCAMの話は、まんざら話だけで終わるとも思えない。反対にHD DVD陣営では、ビデオカメラを作り慣れたメーカーがいないこともあって、HD DVD CAMの登場は当分ないだろう。

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