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2006年、「放送と通信の連携」の行方はどうなる?西正(2/2 ページ)

» 2006年01月06日 16時08分 公開
[西正,ITmedia]
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 ワンセグ放送のスタートにより、そうした利用シーンが活発に見られるようになることは容易に予想される。新たなビジネスチャンスを模索する上では、番組関連サイトを充実させる試みが最優先と言えるだろう。

 スタート当初は、ワンセグ放送が見られる端末機は限定的だと言われている。しかし、固定テレビの買い替えサイクルが10年であるのに対し、携帯電話機の買い替えサイクルは20カ月である。新しいサービスへの順応性が高い若者たちから、自然と普及していくに違いない。おそらく半年も経つ頃には、テレビをポータルとする携帯電話機の使い方は珍しくも何ともなくなることだろう。

 「放送と通信の連携」に苦心していた事業者からすると、驚くべきスピードで「連携」した使い方が広まっていくことになる。便利なサービスであれば、難しい説明は不要である。当たり前の顔をして使っている若者に「それが放送と通信の連携だよ」と声をかけようものなら、かえって怪訝な顔をされてしまうことになりそうだ。

テレビ番組のネット配信も活性化

 2005年に色々な形でスタートした映像コンテンツのネット配信は、2006年にはテレビ番組のラインアップも増えていき、いよいよ本格的なビジネスモデルが議論されるようになる。

 USENの「GyaO」、ソフトバンクの「TV バンク」をはじめとして、PCで映像コンテンツを楽しむスタイルの提案が多様化してきた。テレビ受像機にSTBをセットして、IP方式で多チャンネル放送を視聴する世帯も10万件を突破した。

 PCで視聴するか、あくまで慣れ親しんだテレビ受像機で視聴するかは、ネット配信の利用者が増えていくにつれて、大勢が決していくかもしれないし、両方が同時に伸びていくかもしれない。広告モデルは難しいと思われるが、現在の利用状況を前提にせずに考えれば、コンテンツのジャンルなどによっても色々なビジネスモデルが分かれていく可能性も大きい。

 キラーコンテンツとして期待されているテレビ番組も、市場自体が拡大していけば、投入される本数が増えてくることは明らかなため、相乗的に活性化していくに違いない。現在のところは保守的なスタンスを採っている著作権者、著作隣接権者たちも、徐々に許諾する方向に傾いていくと思われる。

 そうなれば、テレビ番組のマルチユースの一環としてのネット配信が活性化するだけでなく、それと同時に最初からネット配信を前提としたコンテンツの制作も増えていくことになろう。制作プロダクションに資金が流れることにより、人材もより一層の多様化が見られることになり、異色の天才制作者が登場しやすい環境が整っていくことも期待される。

 現在のところ、地上波デジタル放送をIP方式で再送信する話と、二次利用として単発でネット配信される話とが混同されているケースが多々見られるが、市場の拡大により正しい認識が持たれるようになれば、無用な誤解は解消されていくだろう。

 実を言えば、それこそがネット配信を巡る2006年の動きとして、最も望まれることである。「テレビ局が保身のために、番組を抱え込んで離さない」といった誤解が早々に解消されない限り、著作権問題の解決どころではないのが実態である。

 受信料問題を契機にNHKの経営形態についての見直しが行われるという。受信料収入の減少に歯止めがかかりつつある時になっての「改革」は、本来ならば不要なことであるばかりか、「放送と通信の連携」に水を差すことが懸念される。

 NHKの経営形態が見直される方向によっては、民放の経営にも大きな影響が出かねない。放送局のエネルギーがそうした方向に割かれれば、明らかに「放送と通信の連携」のための作業は後回しになる。

 結果として、何のための改革なのかも不明確になっていくようでは、その動向を見守っている著作権者、著作隣接権者の不安を煽るだけのことになってしまう。

 発足以来、長年にわたって維持されてきたNHKの経営形態を、わずか6カ月で見直すという方針は、取り返しのつかない拙速な作業になりかねない。ワンセグ放送もスタートして「放送と通信の連携」が本格的に始まる元年とも言える2006年を、後々になって後悔されるような逆効果の年にしないよう、政府も含めて慎重に対処しなければならない。

 明暗が大きく分かれる年になりそうである。いち早くスタートしたサービスが活性化していくことが、一年を「明」とすべき活力になることに大いに期待したい。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「IT vs 放送 次世代メディアビジネスの攻防」(日経BP社)、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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