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H.264の画質向上がもたらすもの――PHL次世代DVDへの挑戦(2/3 ページ)

» 2006年01月25日 15時19分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 H.264はMPEG-2よりも10年進んだ技術だ。MPEG系の圧縮要素はロスレス部分とロッシー部分に分かれるが、H.264はロスレスの圧縮要素が特に大幅に強化されている。動き予測精度は0.5ピクセル単位から0.25ピクセル単位となり、予測モードも「数えてはいないがバリエーションは“爆増”している」(柏木氏)。H.264の圧縮に時間がかかる理由の大部分は動き予測モード増加による、その検出プロセスの増大が原因である。

 PHLは、DVD Forumの議題として2002年の夏にH.264の評価を担当。当時、PHLで出た結論は「40MbpsなければMPEG-2の24Mbpsと同等にならない」というものだった。その後、チューニングを進めて2003年1〜2月に再評価を行うものの、やはり画質は改善しない。

 「しかし、どう考えてもおかしい。MPEG-2は長らく取り組んできて、すでに限界が見えている技術です。現在のエンコーダー以上には画質は上がりません。しかしH.264は限界が遙かに高いはず。当時、私はMPEG-2エンコーダーを担当しており、H.264の知識はほとんどなかったため、文献を読んでH.264のどこに問題があるのかを探してみました。そこで発見したのが、DCT変換を行う際のピクセルブロックサイズと量子化マトリックスが存在しなかったことでした」(柏木氏)

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 もともとH.264は、携帯機器向けに狭帯域で映像を送るために開発さたもので、解像度はSD以下を想定していた。このためSDでの画質は非常に高い。ところが、これをそのまま高解像度の映像に適用しても、HDならではの細やかなディテールは浮かび上がってこなかった。つまり、もとの開発経緯がHDへの適用時に十分レビューされていなかったわけだ。

 H.264 Main Profileでは、16×16ピクセルのDCT変換単位内を最大4×4ピクセルで区切り、動き予測ブロックとしている。しかし、SDの6倍のピクセル数があるHDに対しては、予測ブロックサイズが小さすぎる。高解像度の映像を効率よく圧縮するには、これをMPEG-2と同じく4×4に加えて8×8ピクセルの予測ブロックも可能にする必要があった。

 くわえてMPEG-2ではすでに導入されていた量子化マトリックス(高周波成分に取られがちなビットを低周波成分にも割り当てる事で画質を改善する、ビット割り当ての重み付けマップ)も併用することで、MPEG-2よりもずっと良好なS/Nを実現しつつ、MPEG-2よりも細やかなディテール表現が可能になる。

 問題は判明した。しかし当時、松下電器が推進しているBD陣営では「50Gバイトの大容量が高画質映像には必要。よってH.264に頼らず、MPEG-2を利用するのが正しい」というシナリオでBDの優位性を訴えていた。H.264が改善され、HD映像でも高画質なコーデックということになれば、50Gバイト不要論も出てきかねない。

 「BDを推進する企業としてMPEG-2を推していましたが、技術者としてその結果には納得できなかったんです。MPEG-2/24Mbpsでは映像が歪んでいるのが自分の目で見える以上、MPEG-2に対して積極的にはなれません。くわえて、先のないMPEG-2よりも、これからの10年、発展できる可能性が高いH.264を進化させる方が業界全体のためにもプラスになる。BD対HD DVDという枠組みで見るべきではないと考えました」(柏木氏)

 かくして柏木氏を中心にした3人の開発チームは1年間の期間限定で、H.264の改良を行う内部プロジェクトを推進。実際にアイデアをISO標準H.264コードに実装し、画質改善の実証試験を始めた。

成果は出ていた

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