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電気用品安全法は「新たなる敵」か (Side B)小寺信良(2/4 ページ)

» 2006年02月27日 11時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 次に「製品流通後」のポイントを見ていこう。今回の新法では、罰則が非常に重くなった。これは、「流通前」のポイントでもわかるように、安全に関するいろんなことは民間の自己責任でやってね、という部分を受けたもので、自主検査といってもちゃんとやってくれないとヒドイよ、ということなのである。

 だがこれも罰則に至るまで、いくつかの「命令」というステップが設けられており、すぐに罰則に結びつくわけではない。これまで命令なしに即罰則まで至った体系図【2】に該当する例はほとんどなく、近年ではケーブルテレビの違法チューナーを販売していた被疑者が逮捕された例(pdfファイル)がある程度である。

 しかしこれは真っ正面からPSE法違反というよりも、ほかに著作権法違反などいろいろ余罪があり、即効性のある法がほかになかったから、という事情からの適用になったようだ。

 もう1つ、業者に対しての罰金1億円という額は破格に大きすぎるという話もあるようだが、その議論は命令の部分の具体例を知ってからのほうがいいだろう。

 命令の中で一番重いのは体系図【3】の緊急命令であるが、これが適用された最初の例が、一酸化炭素中毒事故が相次いだ松下電器産業の石油温風機に対する命令(pdfファイル)である。もちろん松下電器としても、自己責任において回収を行なっていたが、その最中に新たな中毒事故が発生したため、緊急命令の発動となった。

 この命令に対する動きとして、松下電器では、全戸にこの製品の回収をお願いするハガキを出している。皆さんのところにも届いたのではないだろうか。

 松下電器ではこれに関する費用をあきらかにしていないが、「配達地域指定冊子小包(通称タウンプラス)」というサービスを利用して、日本全国約6000万世帯に配布している。県内県外で料金が違うが、まあざっくり1枚20円だとして6000万枚だから、郵送費だけで少なくとも12億円かかっている。これに紙代、印刷代などを入れたら、20億円前後の話になるだろう。さらにこの印刷物は、最近の松下製品にも入れられているという話も聞く。こんなことを言うのも不謹慎だが、これなら罰金払った方が全然安い。

 罰則はこの命令の先にあるわけだが、製品で死亡事故を出すということの責任の重さは、罰金の金額で推し量ることはできない。

この混乱は仕組まれたのか

 難しい話になったので、ちょっと一服入れようか。筆者がそもそもこの問題を知ったきっかけは、あるチェーンメールからである。どうも音楽業界関係者の間で回り始めたもののようで、文面には過去の名機の名前がずらりと並び、その下に「全  て  死  亡 」と一括されている。

 最近はメールの真偽を証明するのも難しいらしいので、文面の公開は控えるが、内容にはPSE法を間違って解釈している点が多く、事実よりもむしろ心情的に訴える、もっと言えば非常に混乱し、また読み手を混乱させる文章である。

 文末には典型的なチェーンメールのおきまりで、「一人でも多くのバンドマンに知ってもらうために、これを見た人はコピペして自分の日記でも載せてあげてください」とある。

 このメールは、善意にも悪意にも解釈することができる。仮に問題意識を持って、善意で始めたと仮定すれば、チェーンメールというやり方を選んだことは失敗だった。なぜならば、チェーンメールでは情報の更新や改訂などの作業が行なわれず、変化していく事態や新たに判明した事実に対して対応できない。いつまでも古い情報が回り続けることは、余計に混乱するだけである。

 逆にこれが悪意を持って流したとするならば、目的は中古ビンテージ楽器市場の混乱を招くことであろう。安価に状態の良い中古品を入手し、3月までに売り抜けるか、廃棄という名目で海外に輸出するなど、いろいろな方法が考えられる。

 筆者がSide Aで暗に言わんとしたことは、あまり騒ぎ立てると損になる、ということである。経産省に取材して筆者が感じたニュアンスでは、積極的に省庁が音頭を取って中古市場の実体解明に尽くすという感じはまったくなく、実際にはある程度売られてもしょうがないですよねぇという、日本人独特の「お目こぼし」の論理で解釈した方が得だな、という印象を受けた。

 現場の中古屋さんに思ったよりも緊張感がないのは、おそらくこのあたりのルールはある程度含みおきだったのではないだろうか。だが、世の中こうした旧日本的な「本音と建て前」を嫌って白黒はっきり付けたがる人は想像以上に多いようで、すでに世界のサカモトまで引っ張り出してしまった以上、もうあまりこの手は通用しないと考えるべきかもしれない。

 そういう意味では、最初から法など守るつもりのない人間にとって、今の混乱ぶりはまさに狙い通りの「狩り場」になっている。

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