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電気用品安全法は「新たなる敵」か (Side B)小寺信良(3/4 ページ)

» 2006年02月27日 11時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

中古販売業者に可能な選択

 さて、では問題の中古を販売する方法について、いくつかの手段を検討してみよう。最初に中古販売業者がPSEマークのない製品を販売するに当たって考え出された方法が、マークを付けるために製造事業者になる、という作戦である。これは図の中では体系図【4】の部分に該当する。

 つまり法体系の中では、マークの表示は「販売」より上にあるので、販売業者がマークを付けるわけにはいかない。従ってこのチャートを上にたどっていって、製造業者になっちゃえばいいのでは、というわけである。経産省に取材した中では、この製造業の届け出に関する手続きは、それほど煩雑ではないということであった。実際にこの手段は、経済産業省のFAQにも載っており、ある意味公認の方法とも言えるだろう。

 製品に関する自主検査は非常に簡単で、次の3点をクリアすればいい。

1.商品の外観に問題がない
2.電源が入る
3. 1000ボルトの通電試験で漏電しない

 1と2に関しては、普通買い取り時に全品検査しているはずだから、あまり問題はないだろう。問題は3の検査で、通常は1000ボルトを1分間通電させて漏電がないかを調べるそうである。

 この検査は「絶縁耐圧計」と呼ばれる検査器を使えば、特に資格などなくても可能だ。検査器にはいろいろグレードがあるが、安いものでは十数万、高いものでも50万〜60万程度のようだ。またこの検査は自分でやらなくても、体系図【1】で囲った検査機関に委託することもできる。

 だがこの方法は、同時に一販売店が製造業者としての責任まで背負い込むことになる。法的にはクリアでも、そのリスクや実態の奇妙さを考えれば、おかしな方法である。

 さらに製造責任者ということになれば、その旨を製品内に表示する必要がある。例えば中古販売の「コデラ商店」が製造者の届け出をして製品検査をし、販売するとなると、「コデラ商店」というメーカーとして表示を貼ることになる。

 そうなると今度は元々のブランド、例えば「YAHAMA」という商標と二重表示になってしまい、悪くすると元のメーカーから商標違反で訴えられる可能性も出てくる。では「YAHAMA」というブランドを削って、「コデラ商店」と貼ればいいのか。

 しかしそれでは、商品価値は著しく下がる。みんなが欲しいのは、「YAHAMA」ブランドの製品であり、「コデラ商店」など誰も知らんブランドを付けられたら、パチモン扱いである。さらにそうやって「製造」された製品は、ある意味デッドコピーよりたちが悪いという見方もできる。

 すでにメーカーが倒産して、商標権を主張する人が誰もいないようなものなら問題ないのかもしれないが、そうは言っても中古販売店がそこまで調べられないだろう。この方法を解決策とするには、メーカー団体から「中古品販売において商標権を主張しない」という約束を取り付けなければ、商売としてはデンジャラスである。

 もう一つの手段としては、一定期間レンタルという形で製品を使い、レンタル期間終了後に譲渡する、という方法も考え出されている。レンタルはそもそもPSE法には関係ないため、これまでの中古販売の実態にかなり近い方法だと言えそうだ。

 ただ、形式上の契約と売買の実態が必ずしも一致しないため、いささか「くさい」商売のように見えてしまうのが難点だ。買う側もこのカラクリをちゃんと理解していれば上手く行くだろうが、何も知らずにふらりと立ち寄った客が、こんなヤバいんだか合法なんだかギリギリの話を持ちかけられると、面食らうだろう。

法改正も作戦次第

 その一方で、法律のほうをなんとかした方がいいんじゃないか、という動きもある。署名運動やネット上での具体的な活動は、この方向へ進んでいるようだ。だがせっかくのパワーを無駄撃ちするのは勿体ない。ここは効果があるところへ向かって確実に訴えるべきだ。

 まず、PSE法そのものを廃案にしたり、あるいは中古品を対象外にするという法改正を行なう場合だ。法改正を行なう場合には、国会に法案を提出して審議しなければならない。これにはいろいろなアプローチが存在するが、経済産業省に話を持っていくのは筋が違うのではないか。

 法案が出せるのは基本的に、内閣か国会議員だけである。もっとも内閣から出されている法案のほとんどは官僚が作っているという話もあるんで、経済産業省に話を持っていくという行動も一周回って間違いではなかったりするかもしれないのだが、そこはそれ、この法を執行している立場から法改正を持ち出すのは難しいだろう。

 さらにJSPAが集めた書名のように、「芸術文化の発展に支障」という名目のものを持っていっても、経済産業省は困った顔するだけではないだろうか。それはむしろ文化庁に持っていってくれ、みたいなことになり、たらい回しが始まる可能性もある。理想的には、現経済産業省大臣である二階俊博氏にこの問題を伝えることが出来ればベストであろう。

 一方内閣ではなく、議員立法による法案提出を狙うという方法もある。だが議員立法による発議も議員1人でできるわけではなく、衆議院では議員20人以上、参議院では議員10人以上の贅成が必要とされる。つまり大臣になって立法した経験もなく、派閥を持たない、あるいは動かせない若手議員にアクセスしても、現実はほとんど可能性がないということである。

 そして法改正最大の難点は、国会にかけるために、とてつもなく時間がかかるということだ。特に本格施行が本年度から始まる法の改正など、おそらく1〜2年で済む話ではないだろう。例えば4〜5年ものあいだ、反対運動をしている人が今の活動のテンションを維持できるとは思えない。

 もちろん、今真剣に考えて活動していらっしゃる皆さんを、おとしめるつもりは全くない。これはCD輸入権や、iPod税こと録画・録音補償金の問題を見てきた筆者の経験で、目前に迫った目標期日が過ぎてしまえば、どんな強固なコミュニティも大抵は活動停止状態になったり、霧散霧消してしまうものなんである。今回のPSE法も、4月1日の本格施行を過ぎて、今のテンションで議論や活動が存続するという可能性は、低いと思われる。

 そこで筆者がいろいろ考えた結果、やっぱりこういうことは、仕事として長く活動してくれる組織に下駄を預けるのが一番いいように思う。ヒントは、なぜPCはPSE法の適用を受けないのか、だ。

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