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ターゲットが重なる110度CS放送とIP放送西正(2/2 ページ)

» 2006年03月03日 11時23分 公開
[西正,ITmedia]
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 ちなみに、ケーブルテレビ経由で地上波放送を視聴している世帯では、三波共用のデジタルテレビを購入する意味はほとんどない。ただ、ケーブルテレビもデジタル化は進んでいくことになるので、ハイビジョン放送を楽しめるディスプレイのテレビを購入する意味はある。現状はケーブルテレビ経由で地上波放送を視聴している世帯向けにも三波共用機が売れていると聞くが、それだけ「三波」についての認知度が低いことの証左でしかない。

 そもそも技術的な問題から、110度CS放送はケーブルテレビで再送信されていない。110度CS放送こそ三波共用機を持つ世帯向けのサービスであることが再認識されるべきである。三波共用機が売られる現場でアピールするのが効果的だと述べたのも、そういう事情による。

 もう一方のIP放送サービスも、加入者の伸び悩みに苦しんでいる。こちらは有線ではあるものの、一般のケーブルテレビと異なり、地上波放送やBS放送の再送信が認められていないことが最大の伸び悩みの理由である。

 2011年に地上波アナログ放送を予定通り停止するために、IP方式による再送信もデジタル放送の全国カバー率を高めるための一手段として検討されている。しかし、いずれIP方式での再送信が認められるにせよ、それまでの間はケーブルテレビと同じ土俵で競争しても勝ち目はない。

 ブロードバンドの普及率が急速に高まっており、ネット上でのサービスも高度化しつつある中、今後もブロードバンド回線へのニーズは高まる一方であろう。利用者の増加とともにサービスも高度化していくという好循環の状況にある。ケーブルテレビ加入者にはケーブルインターネットというブロードバンド活用がある。ケーブルテレビがデジタル化されていけば、ブロードバンド利用も自社のサービス範囲内でユーザーを満足させられるであろう。

 ケーブルテレビ経由で地上波放送を視聴している世帯は5割を超えている。逆に言うと、5割近い世帯では引き続き、電波で放送を受けていることになる。ケーブルテレビに加入していない人がブロードバンドを利用するには、いずれかの通信会社と契約してブロードバンド契約を交わすことになる。ブロードバンドのニーズがあり、ケーブルテレビの加入者でないということは、スカパーの直接受信を行っていない限り、多チャンネル放送の接点もなかった可能性が大きい。

 つまり、IP放送サービスも一緒に契約してもらうことにより、多チャンネル放送サービスも提供できるということになる。

 IP放送の加入者も伸び悩んでいると聞くが、そもそものターゲットが絞れているのかという点で、そのマーケティング手法に疑問がないわけではない。

 110度CS放送もIP放送も、いずれも認知度を高めるところから再スタートすべきであると考えられるが、それに加えて、サービスを売るターゲットが絞れているか、サービスを売るタイミングは間違えていないかを改めてチェックしてみるべきだろう。

 そうして考えてみると、両者のターゲットはケーブルテレビに加入していない世帯ということで、重なっていることが明らかになる。その条件に合う世帯が日本全国で5割近くある。ターゲットとタイミングを絞り込んでいけば、もう少しは加入成果が伸びてもおかしくないだけの市場を持つ。

 三波共用機の普及度合い、ブロードバンドの普及度合いを見ると、それとセットで販売していけるサービスの伸び悩みが不自然であると言えないこともない。加入者促進に励んでいる中で成果が出ないことは仕方がないと思うが、セットでセールスしたからと言って顧客に嫌がられるわけではないサービスであると自負できるのであれば、的確にチャンスを捉えていくべきであろう。

 伸び悩んでいる理由については、色々な説明を耳にしてきた。それを踏まえてもなお、巨大な潜在市場が手付かずのままであることを指摘せざるを得ない。少なくとも、認知度が低いと言われたままでは、まだまだ努力が不足しているように思えてならない。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「IT vs放送 次世代メディアビジネスの攻防」(日経BP社)、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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