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PSE問題報道の舞台裏に思う小寺信良(2/3 ページ)

» 2006年03月20日 13時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

マスコミとWEBメディアの断層

 報道番組などで取材を受ける場合、現場の人間や当事者でない限りは、有識者であることが条件となる。つまり問題の構造みたいなものはすでに番組の中で押さえていて、筆者の立場とすれば、本来ならば有識者扱いとなるわけだ。そしてその問題の権威として「どう思いますか」とか、「どうすればいいですか」とか、「これからどうなりますか」と聞かれるのが普通であろう。

 だが筆者がそれほどエラいと思われていないこともあってか、そのような権威者として意見を聞かれるわけではないのが、今回の取材を受けていて面白いところである。

 報道というのは、必ず現場、すなわち一次ソースにあたるというのが基本である。しかしその一次ソースが、彼らには探せない。だから二次ソースである筆者に、「何がどうなってるんですか?」と聞きに来るというわけなのである。すなわち本来は二次ソースに過ぎない、あるいは同じ報道の立場である筆者を、「現場」と見なしているという事なのである。

 これは最初に述べたように、インターネットのニュースサイトを、マスメディアだと思っていないというところにも回帰していく。つまりこのITmediaもそこに載るコラムも、インターネット上で騒いでいる一次ソースに見えているわけである。

 しかしここで一つ言えることは、もはや日本の消費者運動のようなものが、昔のような形態から形を変えつつあるということだ。すべてはネットで議論され、これまでは議論だけで終わっていたものが、沢山の人を集めて具体的な行動に移すという手法を、そしてその数が力になるということを消費者は覚えつつある。

 こういう動きを報道するのは、もはや旧来のマスコミにあったような社会部や政治部といった部署の記者では無理だ。もちろん彼らには彼らにしかできないフィールドがある。そして我々一般消費者はあまりにもその専門性に依存し過ぎてきた。

 政治や行政のことはよくわからないから、とりあえずわかる人が頑張れ、ぐらいの感覚で、これまで難しい問題に対する態度のテンプレートすらも、大手マスコミに作ってもらって、それに伸るか反るかしてしまっていたことは、反省しなければならないだろう。

 だが大手マスコミも、今後の消費者運動を追いかけたいのであれば、「インターネット部」のようなものを作って専門性を持たせないと、報道機関としては立ち行かなくなるだろう。記者というのは、足で稼げと教えられる。だがこれからは、デスクに座りっぱなしでネットをウォッチする記者というものも必要になるのだ。

メディアとしての自覚の問題

 筆者はテレビ番組制作の仕事を現場で17〜18年ほどやったあと、モノカキになった。マスコミというものがどういうものかは、一般の人から見れば反対側の、裏側から知っていることになる。

 そして今回表側として、いざ自分がマスコミから取材される側に立ってみると、いかにマスコミというものが傲慢で自分勝手であるのかを痛感した。まず、取材オファーの経路からして、めちゃくちゃである。

 筆者はPSE法の問題に関しては、ITmedia +Dでしか執筆していない。だから取材のオファーは、ITmedia編集部を通して行なわれるのが筋である。しかしこれまでITmedia編集部に連絡してきたのはNHKラジオ第一放送だけで、関西の某テレビ局報道部はITmediaとはまったく関係ない、インプレスAV Watch編集部に連絡してきた。

 もっとすごいのは在京テレビ局のニュース番組で、なんとインプレスの「できるシリーズ編集部」に連絡してきた。筆者はインプレス発行の入門書である「できるシリーズ」で過去に何冊か本を執筆したことがあるのは事実だが、そもそも出版社系列としても全然関係ないばかりか、インターネットメディアですらない、やってる仕事の内容もまったく違う書籍の出版部署に、筆者とのつなぎを連絡してくるというのはいかがなものか。

 例えばソニー製品のことがわかんなくて問い合わせしたいんだけど、連絡先わかんないからパナソニックに電話してソニーの連絡先聞いてみるかぁ、などと考える人は、常識的なバランスがどうかしている。だがマスコミの取材ならば、それぐらいの筋違いは失礼とも思わないというその感性が、まずダメである。

 インプレスとしても、筆者の連絡先という業務上知り得た個人情報を相手に投げて知らん顔するわけにもいかず、本来の業務とは全く関係ないのに筆者とテレビ局との間に立って折衝してくれたのだが、本日は取材できないという旨を伝えると、「残念です」と一言いって電話を切ったそうである。もう一つのテレビ局のほうは、こちらの連絡先を伝えて1週間以上が経過するが、未だになんの連絡もない。

 つまりテレビというのは、今すぐテメエ勝手に都合が付く人間が欲しいだけで、そのあいだで誰にどういう迷惑がかかろうとどうでもいいわけであり、いざとなったら「同じマスコミのニンゲンじゃないですか」で済ますつもりなのである。

 ただ、報道メディアの自覚という意味では、ITmedia編集部にも問いたい。先ほど述べたように、NHKラジオ第一放送はITmedia編集部に連絡を入れているわけだが、一両日たってもITmedia編集部から筆者のほうに、取材のオファーがあったことの連絡はまだ来ない。

 なぜそれを知っているかというと、NHKの担当ディレクターがたまたま大手SNSの「Mixi」に入っていて、試しに検索してみたら筆者の名前が見つかったということで、すでにMixi経由で取材の連絡が付いているからである。

 記事に関する取材の申し込みなども含め、記事に対する問い合わせに関しては、少なくとも連絡のあった当日中には処理すべきである。それが「ニュースメディア」というものだ。この部分ではITmedia編集部が、メディアとしての自覚に欠ける、あるいは公的メディアとして機能していない、と「本物の」マスメディアから評価されても、仕方がないだろう。

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