ITmedia NEWS >

新ルール適用で技が多彩に――ROBO-ONE第9回大会っぽいかもしれない(3/4 ページ)

» 2006年03月23日 00時29分 公開
[こばやしゆたか,ITmedia]

ASURADA「レイヤードX」

 今回わたしの一番のお気に入り。レイヤードXは、4脚のヒトデ型のロボットだ。4つの脚は完全に等価であり、すべての方向に同じように進むことができる。なんで、これが二足歩行ロボットの大会に出て来たかというと、隣り合った2本の脚を地面について立ち上がることができるからだ。このとき、空中にある2本の脚が「手」となる。4つの脚が等価というのはここでも有効。つまり、任意の隣り合った脚を「足」にして立ち上がることができる。

 立ち上がっている状態で、片手をついて反対側の足を挙げれば、90度回転した状態での立ち位置となる。また、どの2本が「足」になっているかは、ロボットが自分で把握していて、操縦者は意識する必要がない。つまり、リモコンで「パンチ」のコマンドをだせば、そのとき空中にある脚でパンチを行うということになっている。操作性もモードレス。ROBO-ONEで戦わせるよりは、海底や宇宙の探索に使いたくなるようなロボットである。

 残念ながらROBO-ONEのルールでは足を交換することは許されない。「どの2本を足にするか決めておいて!」とシールを貼られてしまった。

 予選は24位通過で決勝進出。足(にした脚)にトラブルが発生したこともあり、初戦でKO負け。でも、ルールの縛りさえなければ、トラブルを起こした脚を空中にあげて、別の2本で立っていることもできるはずなのだ、こいつは。

ROBO-ONE(本戦)決勝トーナメント

 明けて19日は決勝トーナメントだ。試合は3分1ラウンド。10カウントか3ダウンを奪ったらそこで勝ち。それを満たさない場合には、ダウン数の少ない方が勝ち。それも同じだったら2分の延長。延長戦は一方がダウンしたらそこで終了というVゴール方式だ。それでも決着がつかない場合には、延長戦内でのスリップダウンなどの数を数えた上で審判の判定によることとなっている。また、マシントラブルなどのときには2分のタイムを取ることが許されているが、それは1ダウンと同じ扱いとなる。

 そして、1回戦から延長戦が相次いだのだ。1回戦16試合のうち4つが延長戦だ。お互い捨て身技での攻撃を狙うために、相手の後ろに回りこもうとしあうということなのだが、でも、0-0ではなく1-1というようなダウンを奪い合っての延長戦というのが目立った。みている方は面白いのだが、運営側は予定時間をオーバーしてしまって大変だったろう。

 試合の中から、いくつか代表的なものを取り上げてみよう。

2回戦第7試合「トコトコ丸」v.s.「ARIUS」

 前回優勝者のちーむトコトコ「トコトコ丸」に対するは、J-class優勝者のスミイファミリーの「ARIUS」。スミイファミリーは、J-classに「ありまろ5」、本戦に「アリキオン」「ARIUS」と3つのロボットを引っさげて来たのだ。そのすべてが完成度が高いというのは恐れ入る。

 トコトコ丸は50センチ、2.5キログラム、ARIUSは34センチ、2.4キログラム。衣装のせいもあり、数字の差以上に大きさが違って見える。

 まず、トコトコ丸が手に持った扇子でARIUSをひっぱたきダウンを奪う。この扇子は舞を魅せるものでもあるのだが、攻撃力も大きいのだ。しかし、ARIUSも全身をのばしての浴びせ倒しでダウンを奪う。

 そして、ARIUSは背後に回ってくちばしでつつく。トコトコ丸は安定しているようだが、このとき扇子を持った手が地面に接していたのだ。厳格なルールになったのでこれはダウンだ。結局これが決勝点となり、2-1でARIUSの勝利。ディフェンディングチャンピオンはここで姿を消した。

2回戦第8試合「MYRO-3」v.s.「OmniZero.2」

 予選1位の「OmniZero.2」に対するのは、韓国のMyongjiRobotチームの「MYRO-3」。全高55センチ、体重5キロという重量級ロボットだ。あれにのしかかられたら、無事ではいられないんじゃないかと思うほどのパワーを誇る。一方OmniZero.2は全高40センチ、体重1.9キロ。スピードはすばらしいとはいえ、重さは半分以下だ。実況の土田一郎氏は「大変見たかった試合」と語ったが、会場のみんながそう思ってただろう*3

 試合開始直後、リング中央に駆け寄ったMYRO-3が前のめりに倒れる。地響きともいうほどの音がする。ところがMYRO-3は立ち上がれない。重量級というのは自分にも負担がかかるのだ。1ダウンと引き換えにタイムを申請。調整を行う。

 再開後はMYRO-3も快調なようだ。とにかく浴びせ倒しでOmniZero.2を倒そうとする。しかし、OmniZero.2は逃げる。とにかく、常に足踏みをしているようなやつなのだ*4。前後左右にすぐによけられる。MYRO-3の背後に回って、ひざかっくんの体勢に入る。しかし、ここでMYRO-3の払うようなパンチが炸裂。まともに食らってはOmniZero.2はひとたまりもなくダウンだ。

 1分30秒には、OmniZero.2は静止しているMYRO-3の背後から後ろ浴びせ倒しをしかける。でも、MYRO-3はびくともせず、かえって跳ね返されてしまう。まともにいってはだめだ。その直後、こんどはMYRO-3が歩き出しかけたところに再び後ろ浴びせ倒し。今度は綺麗に決まってダウンを奪った。ロボットは(人間もだけど)歩いている途中というのは不安定なのだ。そこを狙った操縦者の勝利だ。

 これが決勝点となってダウン数2-1でOmniZero.2の勝ち。スピードがパワーに勝ったという日本人好みの結末である。

準々決勝第1試合「グレートマジンガアJr」v.s.「マジンガア」

 同門対決。おなじ光子力研九所のロボットであり、マスタースレーブ方式のロボットである。ちがうのは、グレートマジンガアJrはJ-classにも出場するために、全高35センチ、体重1.5キロの軽量級であること(マジンガアは、47センチ、3.2キロ)。そして、Jrの操縦者は小学生であることだ。

 同門ではあるが、この2人は練習時代でも戦ったことがないのだそうだ。みんなが見たかった対決その2である。

 サイズの違いこそあれ、双方ほとんど同じデザインのロボットだ。踏ん張ってしまうと安定して、なかなか有効打が奪えない。パンチでは倒せないので、前あるいは横から浴びせたおす形を狙う。成功したのはマジンガアだ。1分25秒、倒れ込みながらの両手パンチがJrの顔面をとらえる。

 この後は双方ダウンが奪えない。技はJrの方が多彩に繰り出すのだが、重量差にはばまれてダウンにはならないのだ。このまま1-0でマジンガアが勝利。

 先輩の意地を見せたというところだが、マジンガア操縦者のこうじ氏によれば、「メカの差で勝った。オペレータは彼の方が上だ」とのこと。

準々決勝第2試合「Black-Seed」v.s.「ivre」

 TeamLilacの「Black-Seed」は、真っ黒いフォルムで、試合開始時には挨拶をする代わりに挑発をする、そんなロボットだ。悪役としての人気が高い。対する ゆ(これがチーム名)の「ivre」は、長い腕を持ったロボットだ。こういう極端な設計のロボットはバランスが悪いことが多いのだけど、ivreはそんなことはない。腰のサーボを使った回転で長い腕を振り回して相手を刈って勝ち上がって来た。

 試合はBlack-Seedの挑発ポーズから始まる。ivreはそれにかまわず、腕を上に上げてのダイビング。Black-Seedは開始早々ダウン。しかし、すぐにこんどはBlack-Seedが浴びせ倒しでダウンを取り返す。いい試合になりそうだ。

 その後も双方攻撃を繰り出すのだがなかなかダウンにはならない。どちらも安定している。

 2-1になったところで、残り時間はあとわずかだ。定位置にもどったivreが動き出さないので、Black-Seedが駆け寄る。とにかくこっちはしかけなければ負けるのだ。しかし、そこにivreの腕が炸裂。ラウンド狩猟直前に3ダウン目を奪った。

 試合後の話によると、この時点でivreは腰のサーボが壊れており、歩くことができなかったのだそうだ。もしBlack-Seedがしかけなければ、ivreはスタンディングダウンとなって負けていたのだ。勝負の機微である。

 ivreは、次の準決勝までに故障を修理することができず、リングには立ったものの、マジンガアに3ダウンを奪われ敗退、3位決定戦に回った。

準決勝第2試合「ダイナマイザー」v.s.「ARIUS」

 スギウラファミリーの「ダイナマイザー」とスミイファミリーの「ARIUS」。ライバル同士の戦いだ。どちらも高い運動性能とパワーを兼ね備えたロボットであり、操縦者もダイナマイザーは中学生、ARUISは小学生で、大人たちよりもずっと上手なテクニックを魅せてくれる。

 両者、果敢に攻撃をするのだが、なかなかダウンにたどり着けない。相手の攻撃をカウンター攻撃でかわすような戦いのすえ、どちらもダウンのないままに3分終了。延長戦に突入した。

 延長開始直後、ダイナマイザーが前回りアタック。ARIUSは虚をつかれたのかまともにくらってしまう。ARIUSは、ここでつま先立ちの姿勢で一瞬バランスをとっていたのだけど、そのあと後方にたおれてしまう。ダイナマイザーが決勝進出だ。


*3 OmniZero.2制作者の前田武志さんに、昼休みに話を伺ったのだけど「メディア的には注目でしょうが、やる方はたまったもんじゃないですよ」とのこと。たしかにそうだっただろう。

*4 常に動いているとバッテリーがすぐ減るのではないかと思ったら、静止するためにも電力が必要なサーボモータの場合、動いていてもあまり消費量は変わらないのだそうだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.