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中古販売実質容認報道の罠小寺信良(2/4 ページ)

» 2006年03月27日 09時30分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 ところが蓋を開けてみれば、検査機器の数がまったく揃わないことが明らかになった。全国に先がけて3月23日から検査機器の無料貸し出しに踏み切った四国経済産業局だが、用意できた検査機はたったの15台。

 検査機を貸し出すと言うことは、持ち込み検査ではなく自分のお店で検査するという前提なわけだから、いくら四国に4県しかないからといっても、中古店の数が15件で済むわけがない。しかも貸出期間は2日間だという。

 だいたい中古品の買い取りというのはお客が売りに来る以上は毎日行なうわけだから、日々中古品が充填される。今ある在庫だけ検査できればOKというわけではないのである。

 結局は無料貸し出しという対策の現実性のなさを、改めて再確認することになった。そしてこのことが、のちのトリガーとなっていく。

 一方でビンテージ販売のほうは、ビンテージの定義があいまいということで、3月16日の記者会見では事務次官が、経産省のほうから省令を出して定義するという考えを示している。

 このビンテージ品に対する特例措置は、PSE法の問題を認識した上での対策というよりも、有名ミュージシャンらによる反対運動封じという側面は否めない。さらに除外するビンテージ品のリストを、行政が作るという。面白いと言うと不謹慎かも知れないが、これが実現すれば、国家認定ビンテージ品というのが誕生することになる。おそらく世界初の試みであろう。

 しかも文化的価値判断を、文化庁ではなく経産省が決めるのである。もちろん文化庁だからリストが作れるか、また作ったリストに意味があるかということは全く別問題だが、いずれにしても総務省日本ブログ協会設立並みの大きなお世話であり、また無謀な試みである。

 だが実際には、ビンテージリストが作られることはなかった。

1989年理論の破綻

 3月22日、すなわち先週の水曜日に示された案は、ビンテージの範囲を1989年末以前に生産中止になった製品とする、というものであった。つまり個別のビンテージリストを作成するのは断念して、90年代以前、というところで線を引こうというわけである。

 しかし考えても見て欲しい。我々も普段から80年代とか90年代とか使っているが、それは言い回しとしてイメージを伝えるための方便にしか過ぎない。音楽にしても何にしても、1990年1月1日をもって作り方や傾向や考え方や演出論やブームやモチベーションやテクノロジーが一斉に代わったわけではない。すべてのものは、人生と同じように過去をベースにしながら、連続していくものなのである。

 西暦を使ったナントカ年代などというのは、あくまでも数字的な区切りというだけの意味しかなく、人の嗜好や文化などが、本当にそこで断絶するわけではない。当然これは数字のキリがいいところに意味がないというだけでなく、たとえ何年で線を引いても、そこに文化や技術の断絶面などないのである。

 筆者は過去2回のPSE法関連コラムで、中古品を対象外にできない経産省の事情にも一定の理解を示してきたつもりだが、こうなってくると一体何がしたいのか、わけが分からない。

 翌23日には、JSPAからMPN(演奏家権利処理合同機構)に活動の中心を移して、やはり松武秀樹氏が経産省宛に要望書を提出している。これはJSPAのものとは違って、楽器に限らずすべての中古・新古電器製品について、PSE法の対象としないよう求めている。

 しかし同日の事務次官の会議後記者会見では、要望書を受け取ってもなお、検査体制の確立に最大限の努力行なうと、基本的に中古製品の扱いに関しては現状維持という方針に変わりがないことを強調した。

 そして運命の3月24日を迎えることになる。

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