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情報過多が作り出す「Level1飛空艇」症候群小寺信良(3/3 ページ)

» 2006年04月17日 08時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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人のマップでは役に立たない

 結局のところ、どうしてこういう人材が育成されてくるかというと、やはり「調べ物文化」が崩壊してしまったことに要因があるのではないかという気がする。現在調べ物をするときのトップはやはりWEBだろうと思うが、もしそれが使えなかったら、あるいはそれで探せなかったら、となった時の次の手がない世の中になってしまっている。

 社会のおおざっぱな仕組みであったり、職種固有の旨味であったりといった情報は、それだけWEBから情報が取得しやすく、また友人からも仕入れやすい。そして元々情報ソースは1つかもしれないが、自分へのインプットは多方面からなされているため、普遍的な事実であると受け止める。WEBも人の噂も、情報が一次ソースではないというでは、大差ないのである。

 筆者の周りには、娘や姪など年端もいかぬ世代がいるわけだが、彼ら彼女らは新しいデバイス、例えば携帯でもiPodでもいいが、まずマニュアルなど見ない。とりあえずデタラメにいろいろ使ってみて、行き詰まったら誰か詳しい人に聞く、というスタイルでこれまで生きてきた。

 マニュアルを読むのはある意味負けである。誰のどういう負けかというと、ユーザーにマニュアルを読ませなければわからないようなものを作ったメーカーの負け、という意味であり、そういうものを好んで自分で選んだわけなのだが、それは「ハズレ」であり、「アタシだけ不幸」なのであり、「ムカつく」のである。

 人に聞くというのは、ある意味究極のインタフェースだ。自分が何がわからないかも適当な説明で済まし、あとはあんたが考えて、というわけである。ある意味、医者にかかるということと似ているかもしれない。症状を訴えて、どこが悪くてどうすれば直るかを人に判断して貰う。

 マニュアルや辞書、百科事典など、それを見れば必ず書いてあるはずの情報源にアクセスすることを、疎ましく思うようになってしまっている。検索性や一覧性が悪いからだ。そして答えを調べる過程も、学校教育ではあまり評価しない。

 これは入門書なども書いている筆者にも耳が痛い話で、マニュアルを読めばわかるようなことでも、別の見せ方をすることでお金を稼ぐやり方であるとも言える。つまり情報の検索性や一覧性を良くすることで、問題点を探しやすくしただけなのである。

 だが、本当にわからないところ「だけ」がテンポラリ的にわかるようになっても、全体の構造を理解したことにはならない。そのためにはやはりそれに至るまでの経緯や体系を知ることが必要なのだが、入門書などがそう言う部分を置き去りにしてきているのは事実だ。

 結局、辞書などで調べさせることの意義とは、その調べる過程で得られる付加的な知識も「コミ」なのである。だがその過程を重視しないピンポイント一本釣り的なキーワード検索は、回答への到達としては効率がいいが、幅広い知識を得させようとすれば、数限りない疑問点を提示してやらなければならなくなる。

 社会人としての第一歩というのは、ある意味現実世界の地面に足を付けて歩き出す第一歩であるとも言える。その面倒を見る先輩社員は、荷が重いのも事実だろう。

 だがここで、自分もそこで苦労したからと、変にやさしくなってはダメなのだ。優しい大人は、生意気な子供を増長させるだけなのである。ここは一発、まずは全滅して貰って、オノレの限界と力量を知るというのが筋だろう。

 そして地面をはいずり回って構築したオリジナルのワールドマップこそ、リアル世界で価値があるものだと知って貰うしかない。


小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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