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今起こりつつあるビデオカメラの革命小寺信良(3/3 ページ)

» 2006年04月24日 07時50分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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 ただ、三洋Xacti HD1に見られるように、現時点でもデジカメからのアプローチは可能性がある。これはデジカメという土壌に、PCリテラシーが非常に高いという特殊性があるからである。

 つまりハイビジョンの動画をテレビと結びつけずに、PC内だけで完結してしまうという使い方だ。これは子供の成長記録を作品として作るといった使い方ではなく、動画資料として使うというユーザーの意識変化が行なわれた場合に、成立するだろう。

 これには、DVDビデオカメラで起こりつつある意識変化が、導火線となる。つまりインデックスを付けてすぐに必要な場所が読み出せるようになっていれば、編集などする必要がない、という考え方である。

 この考え方は、ビデオ編集という難儀なものを覚えなくて済むということもあるが、すでにデジカメで行なっているように、データとして画像を整理・管理するという文化が生まれつつあることも関係がある。方法論さえ確立すれば、動画をデータとして管理する方法は、多くのPCユーザーに受け入れられる可能性がある。

 このような考えを進めていけば、ハイビジョンカメラの最もイージーな着地点は、HD DVDのビデオカメラや、Bru-rayのビデオカメラであるという答えも出てくる。現に両規格とも、8センチメディアを規定している。昨年夏までの状態では東芝がビデオカメラを作っていなかったため、HD DVDカメラは可能性がなかったが、今は事情が変わってきた。

 ただこれは、実現するまであと2〜3年はかかるのではないかと予想する。というのも、H.264のリアルタイムハードウェアエンコーダがまだないからである。もちろん無理にH.264を使わなくても、MPEG-2でも実現は可能だろうが、やはり小型メディアの容量とコーデックとしての効率を考えれば、H.264対応は消費者から望まれるところだろう。

ネックは何か

 今ハイビジョンカメラを作る上で、映像品質面での課題の一つは、レンズである。桁違いに解像度が高くなるため、色収差といった光学性能の悪さが如実にわかってしまうのが、ハイビジョンの世界だ。

 この点で最も有利なのは、自らレンズを設計・製造しているキヤノンであろう。高解像度に耐えられてコストに合うビデオレンズの開発は、すでに別レンズブランドと契約している2社を除いた競合他社への供給も含めて、大きなアドバンテージとなる可能性がある。

 もう一つの課題は、撮像素子だ。HDV規格では、1080iであっても記録時は水平解像度1440ピクセルに圧縮される。だからといって、撮像素子も横1440ピクセルでいいかというと、そういうわけにはいかない。1440×1080では、正方ピクセルの場合、画角が16:9にならないからである。では最初から横長画素の撮像素子を作ったらいいじゃないか、と思われるかもしれないが、そういう変形画素では、静止画撮影の時に困る。

 ただ現在は、デジカメ用に高画素撮像素子の開発技術があるので、1CCDのような単板式システムは比較的問題なく作れるだろう。ただし画素数が増えることによって、デジカメと違い長時間通電状態にあるビデオカメラでは、消費電力が問題になる。

この点では、CCDを捨てて次世代技術「CMOS」へ早々と移行を果たしたソニーが、ユニークな立場にある。

 問題は3CCDのような三板式システムである。デカい撮像素子を3つも並べたら、とても小型化できないし、コスト的にも消費電力的にも不利になる。現在HDVカメラで3CCDモデルがいくつかあるが、ほとんどはフルHD解像度のCCDを搭載しておらず、画素ずらしによる疑似高解像度で記録しているというのが実情である。

 コンシューマーのレベルでは画素ずらしでも問題ないとも言えるが、やはりせっかくのハイエンドモデルであれば、いずれはフル解像度の撮像素子が望まれるときがくるだろう。このあたりは映像品質とコストを比べて割り切りができるプロよりも、スペックが満たされなければ損をした気になるという、コンシューマ特有の気質である。

 あるいはテレビへの親和性を考えず、PC内で完結するという方向性を考えれば、1080iではなく720pを採用するという方向性は、検討に値するだろう。こちらのほうが画素数が少ないため、多少は作りやすいはずである。

 長らく閉塞感があったビデオカメラ市場だが、メディアの多様化とハイビジョンの出現で、にわかに活気づいている。メーカーの鼻息と消費者の意識がうまくシンクロできれば、デジタル放送特需のテレビ並みの好景気市場へと転換できる可能性は、十分にある。


小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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