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仕事はデジタルで、作品はフィルムで――池本さやか写真家インタビュー(3/3 ページ)

» 2006年05月12日 16時00分 公開
[永山昌克,ITmedia]
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個展は一期一会のパフォーマンス

――フィルムに惹かれる理由は?

池本さん: フィルムの持つ“壊れやすさ”や“あやうさ”が私の感覚に合っているのだと思います。ぞんざいに扱うと、ポジやネガフィルムには傷が入るかもしれない、そのままにしておくと、いつかは変色するかもしれない。そんなことにドキドキしながら、だからこそ大切にしたいという思いがあるんです。

 デジタルの場合も、うっかりとデータを消してしまう別の意味での心配はありますが、目に見える実体がないせいか、何か手応えのなさを感じます。もっとも、簡単に消去できるのは、今の時世には合っているのかしれませんね。

 また撮影に関しては、デジタルとフィルムとではおそらく集中度がまったく違うと思います。デジタルカメラの場合は、すぐに撮り直せると思うと、気軽にシャッターを押せるような気がします。

 もちろんデジタルを否定するつもりはありません。デジカメは、即座に結果を見られるし、枚数を気にせず何度でも試せることから、写真撮影が上達するケースも多々あると思いますし、自宅にいながら、仕事ができるメリットもあるでしょう。

 ただ、デジタルのみで物事をすまそうとすると、人間は頭でしか考えなくなっていき、自分の中でバーチャルな世界が占める割合が多くなる気がします。これは、ずいぶん危険なことだと思うんです。行き過ぎると、他人の痛みを感じることが難しくなっていって、現実とのギャップが開いてしまうこともあり得る気がしています。

――作品発表の手段としては、プリントしたものを見てもらいたいですか?

池本さん: 私にとって個展はパフォーマンスだと思っています。1〜2週間程度の期間中に、その場に来ていただいて、実際のプリントを見て、作品とその時と場を共有してもらうことを大切にしています。いつまでも存在するものではなく、その瞬間だけそこにあり、期間が過ぎれば、それで終わり。プリントは残りますが、飾り付けの順番や配置までがこちらの演出です。

 人によってはインターネットを通じて作品を発表する人もいるでしょう。最近は携帯電話で撮り、そのままウェブにアップロードできる手段も広がっています。悪い意味ではなく、そんな気軽な見せ方から、プリントのクオリティにこだわった個展での見せ方など、発表の手段が広がっていること自体は良いことだと思います。

 私も自分のウェブサイトで作品の一部を公開していますが、これは作品発表というよりは、ポートフォリオを持ち歩いて見せる手間を省くための簡易的な見せ方だと考えています。黙っていても外国の見知らぬ人からメールが来たりしますから、ウェブサイトを通じて気軽に交流できるメリットは、確かにあります。ただ実際には、やはり個展の際のプリントを見ていただきたいと思いますが。

――今後の予定は?

池本さん: 6月17日〜25日に個展を開きます。これはパリに留学中に出会ったオーケストラの演奏者たちのポートレートです。モノクロのオリジナルプリントを約50点発表します。詳細は私のホームページにありますので、ぜひ見にいらしてください。



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