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Web2.0の中味と外側小寺信良(3/3 ページ)

» 2006年05月29日 09時48分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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何が残るのか

 Web2.0というのは、ある種の発明であったと言える。つまりすでに存在するものをかき集め、それらを総体として名称を付けること自体が、である。

 もう一つ思い出話をしよう。今から約20年ほど前に、「ニューメディア」というキーワードがもてはやされた事がある。それまで、映像コンテンツ商売は、放送に大きく依存していた。だがもっといろいろな手段で顧客にアプローチできるはずだ、というのがそもそもの発端である。筆者も就職試験で、よく論文や面接で聴かれたものだ。「あなたの考えるニューメディアとは?」

 そのニューメディアの大号令が何を生んだかと今になって考えれば、レンタルビデオと衛星放送だけである。なあんだ、と思われるかもしれないが、実は潜在的には大革命だったのである。

 顧客にとってレンタルビデオは、それ以前にレンタルレコードという商売が存在し、それの映像版というだけかもしれない。だが版権を持つ映画会社に取ってみれば、これまでは映画館にもかからずテレビ局からもお呼びがかからず、ただただ死蔵するしかなかったB級C級の映画フィルムが、突然金の卵を産む雌鳥に化けた。

 衛星放送は、これまでは放送局という既得権商売であったところに、コンテンツ制作会社や映画配給会社自身が自分のインフラを持つという夢を持たせた。もちろんそれには多大な犠牲が必要で、うっかり手を出したプロダクションがものすごい勢いで負債を抱え、あっという間に倒産してしまった例も少なからずあった。唯一生き残ったのが、WOWOWとスターチャンネルである。

 過去の例から見れば、抽象的なムーブメントに言葉を与えれば、モノゴトが回転し始めるのだということがわかる。こういう魔法の言葉は、10年に一度ぐらいの間隔で発明される。その次の10年は言わずと知れた、「マルチメディア」の時代であった。これはご記憶の方も多いだろうが、そこで残ったものはMacroMind DirectorとCD-ROMだけである。

 これらのムーブメントは何か残っただけでもマシだった方で、もちろんこれ以外にも数々のキャッチフレーズが生み出され、何も残さずに廃れていった。Web2.0も、「これのどこがWeb2.0なんだよ」という安易なモノやサービスが乱立すれば、言葉としての製品寿命は短いだろう。

 パラダイムシフトとは常に、勝ち組だけが存在するというわけにはいかない。結局のところ、「勝ち組2割負け組8割の法則」というのは、過去の例からそうは変わらないのである。

 昔とは事情が違うよ、と言うのは簡単だ。だがこれまでの変革も、みんなそう思っていたのである。今度は違う、オレ達は違うと。

 だからこれからWeb2.0的ビジネスをやろうとする方は、最終的に何が残るかを予想しながら進んで欲しいと思う。そして「残る場所に居ること」が重要だ。こういう修羅場をくぐってきたオヤジの言う事も、まあ参考程度に心に留めておいて損はないと思うのだがナ。


小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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