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「補償金もDRMも必要ない」――音楽家 平沢進氏の提言小寺信良(4/4 ページ)

» 2006年06月12日 09時30分 公開
[小寺信良ITmedia]
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どう守る? 著作権

――平沢さんのようにミュージシャンが自分で著作権を管理するためには、何が必要なんでしょう。法的知識だったりパソコンの知識だったり……。

平沢氏: まず著作権というのは、何もしなくても法律で保護されているんです。勘違いを起こしやすいのは、著作権管理団体が、著作権保護のために戦ってくれるのではないのか、という点です。そもそも使用料を徴収している団体というのは、単に料金徴収団体ですので、トラブルが起こったときには解決してくれません。私は何回もトラブルに巻き込まれていますが、ああそれは当事者同士で処理してください、ということになるんですよ。つまり著作権は、第三者がガードしてくれているわけではないということですね。


 著作権というのは以前のコラムにも書いたことがあるが、親告罪という性格の強い法律である。これは侵害された本人からの訴えがあって、始めて罪に問うことができるわけで、権利者本人以外の第三者が訴えることはできない。

 ここで問題なのは、多くのミュージシャンがこの大事な著作権を、出版会社に譲渡してしまっていることである。つまりミュージシャンが著作権侵害を発見しても、作った本人には著作権がなくなっているので、どうすることもできない。これは侵害以前に、大変な問題だ。

 出版会社自身が問題を感じれば解決のために動く場合もあるが、そのためには本来の著作者が、出版会社と交渉して動かさなければならない。今度は著作者と出版会社との間で、別のトラブルを抱え込むことも少なくない。

 2005年3月、あのYMOが乱発する過去音源の発売に対して、ファンに謝罪するという事件が起こった。これなどは、アルバムをリリースする権利、逆にリリースしない権利を、ミュージシャン本人が自由にできないという、もっとも有名な例であろう。

 平沢氏も自分の作品の著作権を取り戻すために、膨大な時間と労力を費やしたという。

 元々著作物を作った本人がなにもしなくても、あるいは音楽出版社の実情を知ってしまうと、「なにもしなければ」と言った方が適切かも知れないが、著作権は著作者のものである。

 では一個人が保有した著作権で何かトラブルがあったときに、それが自分の著作物であるという証明をどうするのかと心配する人もいるだろう。実は、方法があるのだ。著作物がその人のものであるという証明は、文化庁に登録することで得ることができる。

 プログラム以外の著作物は、それを公表した場合に登録できるので、「第一発行年月日等の登録」をすれば、それが証明になる。「著作権等及び出版権の登録申請書ならびに必要な添付資料の注意事項と記載例」というPDFの18ページ(資料上では34ページ)を見れば、50人以上の人にその著作物を見たり聴いたりしたことを証明してもらうことで、申請できる旨が書いてある。

 インディーズのミュージシャンでも、ファンやスタッフなどを集めれば50人ぐらいの証明書は集められるだろう。申請の手続きなど諸々が難しいと思ったら、民間の行政書士に依頼すればいい。

――最後に、今話題になっているiPod補償金が実現されれば、ミュージシャン側は収入が増えることになりますが。

平沢氏: さあどうでしょう? 分配の資料でお分かりのように、意味不明のこういう数字が出てくるわけですから、私たちはカモですね。それは多少のおこぼれは頂戴してますけど、別にうれしくないです。ネットワーク配信が始まってデジタル化されたとたんに、JASRACが「コピーは犯罪だ」とリスナーを泥棒扱いするようになったのも、おそらくネットワーク、デジタルコンテンツの領域にまで権益を拡大したいということでしょう。いいマーケットを見つけたと思いますよ。(苦笑)


 マスの音楽産業はこれまで、音楽を工業製品化し、大量生産・大量消費してきた。多くのミュージシャンは、売れれば儲かるという賭けにに乗って、才能の担保である著作権を他人に売り渡してしまうということを、当たり前のように受け入れている。そして音楽業界は、音楽の持つ文化的な背景や、なぜ人は音楽を聴くのかという、音楽市場の核となる部分を全く育ててこなかったのである。

 それでも我々は、必要のない音楽を日々大量に買わされているということに、薄々気付き始めている。いくら新曲を漁っても、一日中リピートして聴くたびに鳥肌が立つ音楽に出会えない今の現状は、音楽Loverとして不幸だ。

 大量廃棄物か、文化か。補償金とDRMの問題は、ある意味我々に音楽の意味を問う、一種の踏み絵となるだろう。

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