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著作権を取り巻く環境はどう変わったか対談 小寺信良×津田大介(1)(3/3 ページ)

» 2006年06月16日 17時42分 公開
[渡邊宏,ITmedia]
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 そうしたバックグランドを持つ国で行われているサービスが日本でできるかと言えば、それはできない。ただ、インターネットは国境を越えてしまうので、アメリカで利用できるサービスがなし崩し的に日本でも利用できてしまう。それが現状だと思います。

津田氏: この前、YouTubeのトラフィックのうち3割から4割が日本からだというニュースが流れましたよね。

小寺氏: そうした事実を受け止めると、日本という国は新しいサービスを受けやすい体質を持っているのかなと思いますね。コンテンツに対するどん欲さは世界的に見てもレベルが高い、そうした民族なのかとも思います。WinMXやWinnyの流行を見てもそう感じます。

放送局は自らの映像資産へのニーズに気が付いていないのか

――新しいモノに対する抵抗がない

小寺氏: 新しいモノを使って古いモノを探すのが好きなのかも知れませんね。

津田氏: YouTubeやWinnyがこれだけ人を集めたと言うことは、日本の映像業界が過去のコンテンツ価値についていかに無自覚であり、ニーズに背を向けてきたかの表れであるようにも思いますね。

小寺氏: 津田さんの言うとおり、YouTubeなどで検索されている映像は映画やプロモーションビデオではなく、過去のテレビ番組が非常に多いと思います。いかに放送局がコンテンツを自分の利害のためだけに利用していて、死蔵させてしまっていることか。

 コラムでも書きましたが、「ニューメディア」がなぜあれほど騒がれたのか。少なくとも、映画界にとっては革命だったわけです。

 それまでは映画業界もコンテンツを作ったらそのまま――強いて言えばテレビで再放送してくれるのを待つだけ――だったのに、どんな作品でもビデオ化してしまえばレンタルで利益を上げられることに気が付いた。

 放送業界もオンデマンド放送に積極的な姿勢を見せるなど、同様の動きは見られます。でも、見せているのはポーズだけであるように感じてしまうんです。

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津田氏: 2年前といえば、ライブドア騒動もなかったわけで、「放送と通信の融合」というワード自体がなかったですね。

小寺氏: 放送で巨額の金が動いているのは地方局へ配信できるからで、キー局は自前の“ネット”を持っているともいえるわけです。そのネット上でコンテンツを転がした方が儲かる。しかも、インタラクティブではなく一方的に送りつけるだけですから、ものすごい威力があるわけですよ。特に広告収入を考えれば、インターネット上にコンテンツを流しても大した金にはならない。

 金にならないならコンテンツは出さない方がいいと判断できますし、出さなければ付加価値はより高まります。それに、「自前ネットでの配信」は地方局保護でもあります。地方局は再放送の番組を番販という形で買うのですが、その再放送番組が無料のインターネットテレビなどで放送されてしまえば、地方の人は誰もテレビを見なくなりますよ。

津田氏: IPマルチキャストについては、CATV局保護という側面もありますよね。

小寺氏: 確かにそれは一理あります。地上デジタル放送をあまねく受信できるようにという趣旨で始まったことだと思いますが、そうなると電波の届かない山奥にもNTTなんかが光ファイバを引かなきゃいけないという話にもなりますよ。世帯が少なくて元が取れるか分からないところへ光ファイバが敷設されるか言えば、僕は否だと思いますよ。

 そもそもをいえば、BS放送だって単なる難視聴対策だったんですけど、いつの間にかそうじゃないレベルで議論されています。昔はおおざっぱだったとも言えますね、今はいろんな事情があることを消費者も分かってきていて、うかつに「こうしちゃえばいいじゃん」的な議論にはなりません。これも情報過多がもたらす不幸と言えなくもないですね。

(次回に続く)

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