ITmedia NEWS >

私的複製のポジティブ面対談 小寺信良×津田大介(最終回)(1/2 ページ)

» 2006年06月20日 09時54分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

 第1回「著作権を取り巻く環境はどう変わったか」第2回「私的録音録画制度に潜む問題」と続いた小寺信良氏と津田大介氏の著作権対談も今回でひとまず終了。私的録音録画補償金問題について、利用者と権利者がWin-Winの関係となる世界を築くためには、どういった視点で議論することが必要なのだろうか。

補償金とDRM、双方が存在する世界の可能性

――補償金を徴収するかわり、利用者へある程度は利用の柔軟性を認めるというのが現制度の実態ですが、そのバランスは好ましいものでしょうか?

photo 小寺信良氏

小寺氏: 僕たちは補償金制度とDRMを天秤の両端にかけたケースを想定して話していますけれど、それは必ずしもそう決まっているわけではないですし、誰も決めていないですよね。補償金とDRMの両方が存在するケースも想定できますし、両方ないケースも考えられます。利用者としては両方ない方がうれしいですよね。

津田氏: DRMに関して言えば、iTunes Music Storeはそれまでの音楽配信と比べて非常にユルいDRMで登場しましたよね。CDにも焼けるし5台のPCで再生できます。でも、僕はオフィスと自宅に複数台のPCがあるせいで、それでも厳しいと感じ始めています。「あれ、新しく買ったこのノートでiTunes Music Storeで買ったこの曲が再生できない」みたいな(笑)

 僕の例は極端な例だとも思いますが、利用者のコンテンツ消費スタイルが多様化しているせいで、「最適なDRMとはなにか」が見えにくくなっているのは事実だと思います。利用者の声をまとめにくいのはそのあたりに理由があるのかも知れませんね。

小寺氏: 日本の著作権法に照らし合わせて、私的複製をどの範囲まで認めるかを考えなくてはいけないですね。20〜30年前は友達までOKといわれていた時期もありますが、現在では同一家屋内にいることが条件となると解釈が変わってきている感じがします。

 「同一家屋内」が何を意味するかと言えば、LANを利用した私的複製はOKという解釈が成り立つわけですね。PCからデータを出力する部分に制約を設けるのではなく、出力してもいいけれど、再生できるのはLAN内だけというのが落としどころとして適当ではないでしょうか。

 データを暗号化して指紋やパスワードなどで解除する方式にすれば、LAN外への持ち出しにも対応できます。こういう仕組みは、ユーザーがあるなと感じてしまったらもうダメなんですよ。日本のメーカーは以前からホームネットワークをやりたくて仕方ないんですし、その技術もあるはずです。「とにかくコンテンツの消費にPCをかかわらせない」という考えはナンセンスですよ。

――補償金問題の直接的な火種になったのはiPodですが、iPodを補償金制度の対象とすることで、問題は一応の解決を見るのでしょうか

津田氏: 解決はしないでしょうね。補償金制度のシステムをいくら見直しても、完全な回収と分配はあり得ないと考えますし、補償金の徴収金額がいくらか増加するだけでしょう。

小寺氏: 補償金という制度とDRMという仕組みがどのような関係であるのかを明確にしなくてはなりません。補償金の対象とすることでiPodのFairPlay(iPod/iTunes Music Storeに利用されているDRM)を撤廃できるなら、対象にしてもいいと思えますが、まずはその関係性を明らかにするべきでしょう。

津田氏: iPodの問題は各論にすぎないと思うんです。大本はやはり私的録音録画補償金の制度そのものでしょう。iPodは明らかに音楽を楽しむ機器ですから、現行法をそのままにするならば、対象に含めた方がいいと思います。そうしないと他の機器と整合性がとれませんから。

 ただ、DRMという技術が登場し、音楽配信サービスの受け手でもあるiPodが存在する以上、補償金制度のあり方を徹底的に議論する必要はあると思いますし、だからこそ、専門の小委員会が設立されたと考えています。

――補償金とDRMの関係を明確にするとすれば、どのような考え方をもってあたるべきでしょう

小寺氏: 映像に関して言うと、今はコピーワンスですが、第一歩としてはエバームーブであるべきだと思います。コピー(複製)はダメだというならば、ムーブ(移動)は制限なしでいいと思いますね。

 画面の小さなポータブルデバイスへ書き出す場合、元の画質を保つことは現実的にあり得ませんから、デジタルコピー(ムーブ)とはいえ、劣化しているわけですよね。ここはアナログコンテンツと同じ考え方でいいと思います。OpenMG(ソニーのDRM。ウォークマンなどが実装している)が実現しているチェックイン/チェックアウトの考え方は向いているのかも知れません。

 ですが、それもユーザーにとって負担にならない形で実現しなくてはなりません。いちいち「チェックイン!」とかボタンを押すようではダメですね。スマートな形で「見る権利」の管理ができればいいと思います。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.