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HD DVDレコーダーの「7月発売」に秘められた戦略コラム(2/2 ページ)

» 2006年06月28日 11時53分 公開
[渡邊宏,ITmedia]
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 それだけに記録型HD DVD規格をフルサポートできなかったのは非常にもったいないとしか言いようがない。今後、対応する可能性はあるかもしれないが、いちユーザーとしては「対応できるかも知れない」という可能性だけを信じて購入するには勇気がいる。購入にはHD DVDへの対応は現状のままでもいいという割り切りが必要になるだろう。

 「本来ならばSEDとセットで提案したかった製品。100万円でも買いたいぐらいだ」(藤井氏)、「非常に気合いの入った、マニアの人でも楽しんでもらえる製品」(デジタルメディアネットワーク社 デジタルAV事業部 DAV商品企画部 部長 伊藤眞一氏)

 発表会場ではクオリティへ自信を示すコメントが次々と飛び出したが、藤井氏は内心、忸怩たる思いでいたのではないだろうか。「画質・音質ともに最高級の製品だからこそ、最新技術もフルスペックで搭載したかった」と。

PS3登場前の「クサビ」として位置づけられた可能性

 そうなると最大の疑問として浮かんでくるのは、「なぜ、この時期に製品を発売しなければならないのか」だ。

 ワールドカップ商戦(夏ボーナス商戦ともオーバーラップしており、今年上半期最大の商戦期でもある)に間に合わないと判断した時点で、発表時期をずらしてHD DVD規格の策定完了を待ち「フルスペックのHD DVDレコーダー」として投入する選択肢もあったはずである。

 HD DVD-RWメディアの発売時期は秋以降が見込まれており、商戦期だけを製品投入時期の指針とするならば、年末商戦にフルスペックのHD DVDレコーダーを投入しても良いように思える。しかし、東芝は「フルスペックではないHD DVDレコーダー」のRD-A1を7月に発売するという決定を下した。なぜだろう?

 思い当たるのはライバルとの関係である。BD陣営の筆頭、ソニーは家庭用ゲーム機「プレイステーション 3」(PS3)を11月上旬に発売することを既に明らかにしている。PS3は家庭用ゲーム機のほかにも、BDビデオソフトプレーヤーとして機能するため、「BD陣営の切り込み役」としての役目も期待されている製品だ。BDレコーダーについては各社ともしばらく沈黙を守っているが、PS3の発売と前後し、数多くの製品が市場へ投入されることは想像に難くない。

photo International CES 2006のBDA(Blu-ray Disc Association)のブースに展示されていたプレイステーション 3

 筆者は以前、コラムで、「先行してできるだけ認知度を高めユーザーを獲得したいHD DVD、PS3で11月に攻勢をかけるBD」という両陣営の思惑が存在する可能性を指摘した。RD-A1の7月発売も、HD DVD陣営の「あくまでも先行したい」という意思の表れだとすればつじつまが合うのではないだろうか。

 年末商戦まで商品投入を遅らせれば、東芝(=HD DVD陣営)はフルスペックのHD DVDレコーダーを投入できたかも知れないが、あえて7月に投入したことは、RD-A1をBD陣営に対しての“クサビ”として機能させることを狙った戦略であるとも考えられる。

 このストーリーは当然筆者の推測であるし、もしそうだとしても、両陣営の戦略が功を奏するかはまだ分からない。ただ、よりよい映像、よりよい音響を楽しみたいのはユーザーならば誰でも持つ願いであり、そうした意味ではRD-A1の目指した「超ハイクオリティレコーダー」という方向性は決して間違っていない。

 両陣営が今後どのような戦略でデファクトスタンダード獲得というゴールを目指すのかは不透明な部分も多いが、RD-A1の作りは“クサビ”としてだけ機能させるにはあまりにも高品質であり、惜しい。東芝がどのような次期HD DVD製品をどのような次期に投入するかは分からないが、こうした「製品作りのスピリット」は持ち続けて欲しいと思う。

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