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次世代光ディスクの画質を上げるPHLエンコーダーとは?(2/2 ページ)

» 2006年09月01日 20時56分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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 H.264に新しい要素を盛り込むことでHD映像での画質を向上させたH.264HPだが、しかしこれは標準化された技術であり、リファレンスのソースコードも公開されている。もちろん、規格に無関係な高画質化のための工夫はPHL側で行っているだろうが、それは他社も同じことだ。

 H.264HPに沿ったエンコードであれば、どれも同じではないのか? 筆者自身は、何度もPHLがエンコードしたさまざまなタイプの映像を巨大スクリーンで見ているため、その優秀性や他社H.264との違いを“結果”として認識はしているが、実際の映像で比較したことがない読者には、おそらくピンとこないだろう。

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 たとえば同じH.264HP採用で東芝が圧縮を担当した「戦場のピアニスト」は、フィルムグレインが多いソースでMPEGでの圧縮が行いにくい映像だ。グレインにビットを奪われるのか、ノイズが全体に広がり、ブロック歪みで細かなテクスチャの形状に崩れが見える。他の東芝担当の圧縮を見ると、ビデオ系のクリアな映像は美しく、フィルムでもグレインの少ないもの、あるいはエッジがやや甘めのソフトな映像はキレイ圧縮できているが、細かなノイズや高域の多いソースの表現は不得手なようだ。

 関係者に問い合わせた最新の環境では、東芝のH.264もさらに画質は向上しているとのことだが、「戦場のピアニスト」よりもグレインの多い映画クリップをPHLエンコーダーでテスト圧縮したものは、開発初期の段階(2004年4月)でも、16Mbpsで形状の崩れや目立ったノイズは見られなかった。

 グレインとMPEGノイズ、両方ともノイズだろうという意見もあろうが、両者は見え方がかなり違う。MPEGノイズの乗っていない映像は、グレインがあってもスッキリと見える。フィルム粒子とMPEGによる歪みは根本的に異なるものだ。

 さて、問題はこうした違いがなぜ発生するのかである。

 高橋氏は「ひとつはパラメータの選び方、もうひとつは量子化マトリックスの作り方や映像全体に対するビット配分ですね。特にビット配分に関しては、DVD時代に高画質圧縮を行うための研究開発を相当やり、実際に映画会社と一緒に高画質化を行ってきましたから、そこでの経験があります」と話す。

 と、こう話されると実に簡単なことのように思えるのだが、しかし結果の違いは大きい。上記例では東芝のエンコーダーが悪いように感じるかも知れないが、東芝のH.264エンコーダーは決して性能が低いわけではない。逆にPHLエンコーダーが突き抜けているのである。

エンコーダー開発から品質評価までをワンストップで

 高橋氏のいう“パラメータの選び方”は、H.264世代になって大きく画質に影響するようになった部分だろう。MPEG系の圧縮ではフレーム間の近似する映像パターンを見つけてコピーする動き予測という手法が用いられるが、H.264では予測のパターンが大幅に増加している。また同一フレーム内での動き予測という新しい要素も加わった。

 さらに動き予測のマクロブロックに柔軟性が増し(4×4、8×8、4×8などさまざまな形状を選べる)、エンコーダー側で判別しなければならない動き予測のバリエーションが想像を絶するほどに増えているのだ(これがH.264の圧縮負荷が高い原因になっている)。

 “最適なパラメータを選ぶ”エンコーダーを開発すればいいと文字で書くのは簡単だが、実際のプログラミングは相当に難しいだろう。しかし、だからこそ他エンコーダーに先んじて高画質化を果たせたと高橋氏は話す。

 「われわれは研究開発の部隊で、本来はオーサリング事業を行う部署ではありません。しかし、現在はBD事業を立ち上げるためにオーサリングや出荷するディスクの画質面での品質評価を支援しています。おそらくこうした組織は、世界中どこを探してもないでしょう。品質評価をコーデックを開発と圧縮作業の監修を行った人間が直接行うのですから」

 「たとえば過去にはこんなことがありました。DVDの圧縮作業で、どうしても歪みが目立つところがあり、パラメータ変更では取り切れない。そこに柏木が来て“あぁ、これはエンコーダーのバグだなぁ”と話し、エンコーダーのソースコードを修正してしまいました。品質評価で納得がいかない時、それをエンコーダーのレベルにまで振り返って修正することで進化させる。このプロセスがPHLエンコーダーの画質を高めたのだと思います」

 つまり、エンコーダーのバグなのか、それとも圧縮規格そのもののクセや限界なのか、それともビットレートが不足しているのか、逆にビットが余って無駄になっていないか。その切り分けが正確に行えることこそが、PHLエンコーダーのアドバンテージというわけだ。

 筆者自身、PHLでの品質評価のプロセスを知って驚く……というよりも、呆れたことがある。

 縦12フィートの巨大スクリーンで評価を行っているというのは、以前に紹介したことがあるが、最近はそれでも歪みやノイズを探すことが困難になり、コントラストを強調し、歪みやノイズをディスプレイ側で浮き立たせてチェックを行い、そのノイズを消すように配慮しながら圧縮作業を行っている。

 明らかにオーバークオリティといえる品質評価は、PHLが事業体ではなく研究開発を目的にした組織だからこそだが、その結果としての映像は素晴らしいの一言に尽きる。

 PHLエンコーダーは現在、ハリウッドのPHL内で2台が稼働中で、日本では六本木にある松下電器のオーサリングセンターに1台が稼働している。国内での外販は行われないようだが、米国ではいくつかの納入案件が進んでいるという。エンコーダーは使いこなしと品質評価のプロセスが肝要で、エンコーダーが同じならば同じ品質になるわけではないが、PHLエンコーダーが広がり、これこそが次世代といえる画質のソフトが登場することに期待したい。

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