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“呼吸する球”が高級な音を出す? ビクターの新技術

» 2006年09月14日 20時01分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 日本ビクターは9月14日、正12面体構造の球形スピーカーが、まるで“呼吸する”かのように駆動する「呼吸球式スピーカー」を公開した。すべての方向に対して同じ周波数特性を持ち、「あたかもスピーカーの存在が感じられないほど、音源や音場の情報を忠実に再現する」という。2007年前半の商品化を目指す。

photo 呼吸球式スピーカーのサンプル。直径は10センチほど。球面を同じ形状で分割するため、5角形の正12面体を採用した

 「呼吸球式スピーカー」は、球体の表面が膨張と収縮を行うことで音波を放射する球形音源のことだ。楽器と同じように点の音源から音を拡散させるため、自然に聞こえる“理想音源”に近いものとして、半世紀以上前から研究が進められている。技術的には「全ての方向に同じ波面を伝播し、放射インピーダンスに乱れがない。キャビネットによる音の回折がない。そして平板状音源に近づいたときに生じる近距離音場の問題が生じない」(同社)といったメリットがある。

 これまでも“無指向性”を謳う球形スピーカーは存在したが、構造的には多面体のキャビネットに一般的なスピーカーユニットを多数取り付けたものだった。同社でも1967年の多面体スピーカー「GB-1」以来、いくつもの球形スピーカーを開発してきたが、従来のスタイルではスピーカーの形状やキャビネットが持つ特性に音が引きずられ、原音とは微妙に違う“スピーカー固有の音”になるという。

 新開発の呼吸球が、それまでの球体スピーカーと根本的に異なるのは、まず「キャビネットが存在しない」点だ。支柱部分を除き、直径10センチ程度の正12面体がすべて振動板。駆動時にはほぼ全体が音の放射面となる。

 振動板は、繊維質を混ぜたポリプロピレン製で、5角形の振動板がゴム状の“弾性体”で連結されている。「各面のエッジに柔らかい弾性体を使用したのが、球が膨らんだり、縮んだりするときの重要なポイント」。内部にも振動板を支えるフレームは存在せず、このため周波数特性は従来の球状キャビネットより、さらにフラットだ。

 各面には富士山のような凸部があり、しかも中央よりも少しずれていた。この形状は、同社“お得意”の「オブリコーン技術」(振動板を非対称にして共振を分散させる技術)だが、表面はまるで、スピーカーを裏返しにしたような形だ。

photophoto 各面には富士山のような凸部がある

 内側も通常のスピーカーと随分違う。スピーカーといえば、中は空洞になっていると考えがちだが、呼吸球式スピーカーの場合は“ぎっしり”だ。振動板を支えるのは、2つのサスペンションを直交配置した「ネオジウムマグネット直交ダブルスパイダー」構造。十分な音圧を確保するためにダイナミック駆動を採用し、ネオジウムマグネットの磁束密度は同口径のスピーカーとしては最高レベルの1テスラを確保した。

 「基本的には、磁気回路とボイスコイルを使用する、今まで通りの構造だ。しかし、フレームやキャビネットがないため、振動板だけのクリアな音になる」(同社)。

photophoto デモ機は、ウーファーと組み合わせた2Way構成。CDプレーヤーから同社のAVアンプ「AX5500」のDSPを介して高域と低域を分割。4台のパワーアンプによるバイアンプ駆動とした。楽器の音がリアルだ

 呼吸球の開発により、試作スピーカーは指向性±1dB(10kHz)を実現し、聞く位置を変えても同じような臨場感を楽しめるようになった。また平坦な音圧周波数特性と連結振動板(だけ)の自然な音質を同社では、「スピーカーの存在が消える」と表現している。なお、9月21日からパシフィコ横浜で開催される「A&Vフェスタ」で呼吸球スピーカーのデモンストレーションが行われる予定だ。

photo 開発陣

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