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定額制音楽サービスはアリか小寺信良(2/3 ページ)

» 2006年09月25日 07時17分 公開
[小寺信良,ITmedia]

音楽再生機になるPC

 おそらく日本で、かつてのMusicmatch Radioのようなサービスにお金を払っていた人は、かなり少ないと思われる。というのも、このシステムで音楽を楽しむには、少なくとも常時パソコンが目の前にあり、音楽を聴きながら仕事していても文句が出ない環境でなければならないからだ。

 すなわち会社勤めの人には、まず意味がないサービスなのである。まあ土日祝祭日だけ楽しむという手もあるが、定額制であることを考えると割高である。定額制のメリットとはしゃぶしゃぶ食べ放題みたいなもので、とにかく使い倒し食い倒すという気迫がなければ、まず元は取れない。

 日本でiTMSが当たったのは、もちろん楽曲の品ぞろえと価格、良心的なDRMという要素もあったが、ダウンロードによる買い切りだったということが大きい。つまりローカルに音源があるので、常時オンライン接続は必須でないこと、さらにポータブルプレーヤーに転送することでパソコン必須という環境からも離脱できる。

 単純に言えば、聴く時間が自由になるという、現代の音楽リスニングにはごく当たり前であり、かつ必須の販売形態であったのである。

 日本ではiTMSの開始がずいぶん遅れたため、iPodが一人歩きしていた期間が長かった。したがってiPodという下地があってこそのiTMS、という見方は間違いではないが、最近は少しずつ事情が変わってきているように感じている。

 というのも、音楽ダウンロードサービスは利用するものの、ポータブル機だけではなくPCそのもので音楽を聴く、というユーザーが地道に増えてきているのではないか。例えばカカクコムなどでPC用スピーカーのランキングを見ると、上位にランクされているものはそれほど安いものではない。むしろPCスピーカーとしては結構高めのものに人気が集中している。

 これまでのPC用スピーカーと言えば、1セットで数千円、サブウーファまで付いても1万円するかしないか、というようなものだったが、今の売れ筋はBOSEやJBL、ONKYOといったブランドものである。またサウンドカードも昔はCreativeの天下だったわけだが、最近ではONKYOのハイエンドモデルやUSB接続の外部接続型の人気が高い。

 ここにきてパソコンを音楽再生機として使うという方法も、ようやく浸透してきたと考えられる。ここで「ようやく」と書いたのは、PCの音楽再生環境の向上は4〜5年前からYAMAHAやSONYが力を入れてきたのだが、「笛吹けど踊らず」の状況が長く続いていたのである。現在は両メーカーともこの分野ではほぼ撤退状態にあるが、そんな中にありながらONKYOやRolandなどは、よく辛抱して続けてきたと思う。

 「パソコンが家の音楽プレーヤー」というビジョンは早くから米国には存在していたわけだが、これが日本でも1つのライフスタイルとして市民権を得るまでに、5年ぐらいかかったことになる。これはやはり、日本では音質に関しての敷居が高いという点は大きい。ノイズだらけのPC内部に設置するサウンドカードでいい音が出るもんか、という意見が一般論として通用する、特殊市場だったのである。

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