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行動原理から見る購買層と購買力小寺信良(3/3 ページ)

» 2007年01月09日 11時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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趣味の「創造」

 団塊の世代が、定年後に何をして過ごすか。この問題は、実は団塊の世代自身が抱える悩みでもある。仕事一筋で高度成長期をささえる原動力となってきた男達は、過去自動車産業、住宅産業を大きくした。人数が多いと言うことは、それだけ同じモノを手に入れるために競争を強いられるのである。だが苦労して両方とも手に入れた結果、これといった趣味を持たない世代となった。

 今スポーツ新聞などの夕刊紙、つまり年配サラリーマンが電車で読む系の出版社は、相当な危機感を持っている。これらのメイン購買層である団塊の世代が通勤しなくなれば、ごっそり売り上げ減になるからである。改めて車内を見渡してみれば、今30〜40代で駅売りのスポーツ新聞を読んでいる人は、相当少ないように思う。

 通勤電車で新聞を読むという習慣は、下の世代にうまく継承されなかった。これらメディアは、あと数年で業界再編成を強いられるか、携帯へのデジタル配信へ姿を変えることになるだろう。

 昨年筆者は先輩ライターの山田祥平氏に誘われて、夕刊フジの提供で「デジタルちょいプロ」という番組を作った。デジタル機器の一歩深いノウハウを伝授するという番組である。なぜ夕刊フジが、と問うならば、それは無趣味のまま定年を迎えようとしている世代の焦りを反映しているのだ、ということである。さらに付け加えるならば、夕刊紙もスポーツ、風俗、金融だけではなく、ホビー紙としての道を模索しているというひとつの動きでもある。

 今後はこれら定年世代に対するホビーが、ひとつの産業として成立することになる。今後出てくるオーディオ製品、楽器(団塊の世代はグループサウンズ世代でもある)、あるいはカメラ類などは、高級志向・本物志向・旧ブランド復活ものが多く出てくるのではないかと予想される。ある意味、金額は関係なく、自分の中で価値が見いだせるもの、という在り方だ。

 本物であれば、誰が見ても価値がある。若年層が欲しいと思うものも当然出てくるだろう。もちろんお金に余裕があるならば、若いうちにそういう本物を体験することは、長い目で見れば財産となる。

 だがそこは、これから出てくるであろう高級志向の製品群は、自分たちの金銭感覚とは無縁のターゲットに向けて作られているのだ、という視点を持つことも大事だろう。団塊世代とは、今風に言えば勝ち組の世代なのだ。安易に消費者金融のお気楽なコマーシャルに乗せられて、無理な借金をすることは避けて欲しいと思う。自分の未来に残すのが、いいモノかそれとも借金か、よく考えておくべきだ。

 今後AV機器や楽器などの嗜好品は、より世代セグメント化が進むと思われる。この動きは、デジタルだけが絶対的に正しいとしてきた価値判断の基準を覆す可能性を秘めている。価格対性能比ではなく、時間軸方向の「価値」を語る傾向が強まるだろう。各世代はそのメッセージを正しく受け止めて、賢い買い物をしていく必要がある。


小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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