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米国の前例に見る著作権法延長の是非小寺信良(1/3 ページ)

» 2007年01月22日 12時30分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 昨年12月に行なわれた「著作権保護期間の延長問題を考える国民会議」の第1回シンポジウムは、なかなか盛況だったようだ。筆者はあいにく都合でその場に居合わせることはできなかったが、のちに動画配信で一通りその模様を拝見した。

 筆者も国民会議発起人の末席に加えさせていただいており、すでにクリエイターとしての立場は以前のコラムで表明した通りである。国民会議発起人のメンバーは賛成派、反対派があるわけだが、中立の立場の方もいる。

 成蹊大学法学部教授であり、米国弁護士でもある城所岩生(きどころ いわお)氏は、発起人の中では数少ない中立派の一人だ。いわゆる「ミッキーマウス保護法」と揶揄される著作権法改正時に、米国で弁護士をされていたという経歴をお持ちである。筆者は今回の著作権延長に対する公平な立場でのお話を伺うため、城所教授のもとを訪ねた。

「相互主義」が産む不均衡

photo 成蹊大学法学部教授、米国弁護士の城所岩生氏

 城所教授と最初にお会いしたのは、数年前にさかのぼる。これも著作権関連では有名な事件となった「録画ネット裁判」が知財高裁へ抗告する際、放送の事情に詳しいからということで、筆者の方が逆に城所先生から取材されたのである。それをきっかけに筆者も録画ネット問題を調べ、知財高裁判決の折にコラムを1本上梓するに至ったわけで、以降さまざまな折にお会いするたび、懇意にさせていただいている。

――米国が著作権保護期間を延長したときのいきさつからまずお伺いしたいのですが。

城所氏: 1998年の著作権法改正時に、それまで著作者の死後50年だったのが、70年になったわけですね。その理由として上げられたのが、ディズニーのミッキーマウスの著作権。あれは1928年に公開されています。会社やなんかに勤めている人の著作物の場合は、職務著作というんですが、これの保護期間は公表後75年だった。それを95年に延長したわけです。ミッキーマウスは28年に誕生(公開)したので、2003年に切れるはずだったんですね。それを延ばそうということでディズニーがロビー運動をした。それが功を奏して実現したので、ミッキーマウス保護法というニックネームが付けられているわけです。

――著作権延長を実現したのは、米国が一番最初ですか?

城所: いや、EUがすでに1993年に、70年に延長しているんですね。米国ではそれに対抗するためというのが、実は最大の理由だったんです。

――対抗する理由とはなんでしょう?

城所: ヨーロッパが70年で、他の国が50年のままだったとすると、その国の著作物はヨーロッパの中で50年でいいよと。低い方に合わせるよということなんです。これを「相互主義」と言います。つまりこのままでは、米国が損するので、その対抗上延ばそうというのが一番大きな理由だったんです。そのほかにも寿命が延びてるとか、子供を作るのが遅くなってるとかいった理由もあったようです。

 相互主義は、ベルヌ条約でも認められている国際間の権利の在り方だが、米国は相互主義をとっていない。この考え方は重要なので、もう少し具体的に例を挙げて説明しておきたい。

 例えばEUが70年、米国が50年の保護期間だったと仮定しよう。まずEU内で作られた著作物がEU内で利用されるぶんには、保護期間は70年である。その著作物を米国に輸出した場合、米国は相互主義を取っていないので、米国内での保護期間は米国の法に従って、50年となる。

 では米国で作られた著作物を考えてみよう。米国内での保護期間は、当然米国の法に基づき50年である。それをEUに輸出した場合、EUは相互主義なので、米国の法に基づき50年となる。ここまでOKかな?

 整理すると、EU内において、EU製著作物は70年、米国製著作物は50年の保護期間となる。米国内においては、EU製著作物は50年、米国製著作物は50年だ。米国製著作物は、EUに持って行ったときに20年間の損になるが、その代わりEUの著作物は米国内で20年早く権利が切れるので、どっこいどっこいのような気がする。

 だがポイントは、その貿易量である。米国はコンテンツ輸出量がEUに比べると極端に多い、コンテンツ輸出超大国だ。EUの著作物が20年早くフリーになろうが、それによる利益は微々たるもので、米国にとっては自分たちの輸出物の保護期間が海外で20年損することのほうが、はるかに大きい。この不均衡を是正するために、米国も20年延長する必要があったわけである。


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