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迷走する“EVD”を試しに購入してみた(前編)山谷剛史の「アジアン・アイティー」(1/2 ページ)

» 2007年01月28日 08時00分 公開
[山谷剛史ITmedia]

迷走するEVDに裏切られた顧客

 2006年の最後に掲載したこの連載でも紹介したように、数十機種一斉販売だとかDVDプレーヤーの国内販売を停止するとかと、なにかと「EVD」ネタで盛り上がっていた中国であるが、そもそも「EVDってなに?」について紹介しておきたい。

 EVD(Enhanced Versatile Disk)とは中国がDVDの次を担う光ディスクメディアと期待する技術で、恐れ多くもHD DVDやBlu-rayをライバルとする。中国が「世界の工場」から「知財立国」への転換を目指すため、3G(携帯電話)のTD-SCDMAなどと並んで、EVDは中国のハイテク産業の期待を背負っている「中国最先端IT技術の代名詞」的な存在でもある。中国信息産業部(中国情報産業部)はEVDに3000万元(約5億円弱)を投資していることからも、その期待の大きさが分かる。

 EVDメディアはDVDと同じ片面2層で容量が9.4Gバイトになる「DVD-9」を採用し、そのメディアの中にハイビジョン映像を記録したうえで、音声に独自コーデックを採用することで容易にコピーされないような海賊版対策を施した。発想としてCDメディアにDVDと同じMPEG-2の映像を放り込んだ「SVCD」(Super VideoCD)に似ている。SVCDもEVDと同じ「中国の独自開発」技術だ。

 2006年の暮れには中国の家電大手20社がDVDを、そして2008年にDVDプレーヤーの生産を停止するという「北京宣言」をした。EVDを普及させんがため「家電大手」は「DVDプレーヤー」の生産を止めましょうというもので、あくまでも中国政府が「DVD売るべからず」といっているわけではない(逆に信息産業部は「来年までのDVDの淘汰は無理」と発言している)。また、例え2008年にDVDプレーヤーを発売しなくなっても、北京宣言に加入していない中小企業は発売するだろうし、PCにはDVDドライブは搭載され続けるだろう。北京宣言の意味合いは「DVDのほうが売れるからって抜け駆けするなよ」という大手メーカー同士の約束事といえる。

 今は「EVD=中国の次世代光ディスク」という図式となっているが、以前はEVDのほかにもHVD(High-definition Versatile Disc)とHDV(High Definition Video)という規格もあった。中国国内の次世代標準光ディスクの座をこの3規格で競っていたが、中国信息産業部がEVDを選び、またHD DVDとBlu-rayの製品が続々と世界でリリースされると、3規格は「国内で争っている場合じゃない!」とばかりに(とりあえず、ではあるが)EVDを中国の代表規格の座に置き、HD DVDやBlu-rayに負けじとEVDプレーヤーを各社からリリースしたというニュースを発信し、全世界にEVDの存在をアピールしたのである。

 ここで「EVDを各社リリースした、というニュースを発信し」というまどろっこしい表現をしたかというと、1月初頭現在中国で確認する限り、メーカーからは新しいプレーヤーに関するリリースが未だに発表されていないのが理由のひとつだ。発表したメーカーのWebページを見ても情報は掲載されていない。また、オンラインショッピングサイトを見ても大型電器店の店頭を見ても、その姿を見ることができない、というのが現状だ。ニュースでは「最も安価な製品は600元」(9000円強)というものの、現在販売されているEVDプレーヤーの従来機種はいずれも1000元以上と、報道と比べてだいぶ高い。

 またEVD、HDV、HVDの3陣営がEVDに「とりあえず」収束したはずなのに、HVD陣営が名前を「EVD2」に変えて関連製品をリリースしたというのがもうひとつの理由だ。EVD2といったところで中身はHVDなので、EVD2とEVDには互換性がなく、信息産業部もEVD2を中国次世代光メディアディスクの標準と認めていない。しかし、従来のHVD陣営はEVD2を標準規格に持っていこうと画策している。現に、2006年12月のEVDプレーヤー一斉販売の報道のあと、EVDの新製品は確認されずに、EVD2(その実HVD)の新製品が現地で複数確認しているのだ。中国の各電機メーカーのWebページにもEVD2対応製品のラインアップが掲載されている。さらにいえば、製品価格が「最も安価で600元」と、EVD陣営がニュースで言っていた価格と合致する。

 こういった、確認される事実をつき合わせていくと、年末にリリースされていたプレーヤーというのはなんと「HVDが改名したEVD2」であったようなのだ。国家標準の規格となったはずのEVDとはまったく別物の規格に路線を変更していたのである。この状況にあって、EVD陣営は、既存のEVD購入者のためのアフターサポートや、EVDのソフトタイトルについてまったくコメントをしていない。

 さすがに、多くの中国IT系メディアが「話が違う」「既存のEVD利用者を見殺しにする気か」「国の利益となる標準規格を企業が勝手に変えるとは何事か」「一番必要なのはコンテンツだ」などといろいろな視点から批判的な記事を掲載している。とはいえ、中国IT業界を震撼させるほどの話題になっていないのは、旧来のEVDプレーヤー購入台数が2003年からのトータルで200万台しか売れていなかった、というユーザーがあまりにも少なかったという、「幸か不幸か」という事情があるのだろう。

それなのにEVDプレーヤーを買ってみた

 いろいろ中国で言われている情報だけを読んでいても限りはある。そこで実際にEVDを買ってみることにした。筆者は「そこに行けばEVDプレーヤーが購入できる」と報道されている国美電器へ行ってみた。国美電器は中国全土に店舗を展開する大型電器店チェーンだ。店の雰囲気は日本でいうところのヨドバシカメラやビックカメラというよりは、ヤマダ電機やコジマに似ている。ちなみに購入した場所はIT関連製品が何でもそろっている最先端の北京や上海ではなく、中国のイチ地方都市である。

中国の大型家電チェーンの蘇寧電器」はEVDを扱っていない
同じく中国の大型家電チェーンの国美電器。こちらはEVD関連製品を扱っている

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