コラム
» 2007年02月05日 00時00分 UPDATE

小寺信良:ネットから長文が消えたいくつかの理由 (3/3)

[小寺信良,ITmedia]
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書かないのは書けないからか

 さらに近年は、文章すら見られなくなったブログも増えた。特に最近顕著なのが、「はてな」のブログだ。「はてな」のブログには、はてなブックマークという機能がある。気になるネットの記事に好きなタグを付け、100字程度のコメントも付けられるというものだ。

 筆者は毎回コラムを書くごとに、各種のサーチエンジンを使って、ブログなどでのリアクションを調査している。名前などの固有名詞を含まなくても、記事に対してリンクが張られていれば、探すことができる。

 記事に対してブックマークするということは、関心があるという表れに違いない。だがその反応の詳細は、明らかになることがない。良いことか悪いことかわからないが、とにかくなんらかの反応があったということがわかるという、出席簿みたいなものである。

 これが2年前であれば、同じブログでも文章でリアクションが帰ってきた。だから多くの人がひとつの問題に対してどのように感じたのかがわかったし、多くの意見を吸収することができた。ある意味、知識のエコシステムが動作していたわけである。

 「はてな」のユーザーは、このブックマーク機能の登場により、いちいち文章をつむぐ必要がなくなった。ブログを始めたはいいが何を書いていいかわからない、という人にとっては、敷居を下げる効果はあっただろう。

 また、それは同時に個人のメモのようなものであり、情報整理ツールと化している面もある。記事を読んで、反応のテンプレートであるタグをペタリと貼って、箱にしまっておく感覚だ。ブログがもともとは広く情報を公開するためのツールであるという感覚は、もはやそこにはない。

 筆者がやるように、サーチエンジンから逆リンクを辿ってやってくるという可能性は、考えてもいないだろう。今多くのブログはこのような「ブックマーク系」となり、ブラックホールのような存在となった。その人に何が入力されたのかはわかるが、出力がほとんどない。

 文章を書くのが苦手という人は少なくない。だがあなたが何かモノを考えるときには、なんらかの言葉が脳内で鳴り響いているはずである。人間は言葉なしに、考えることはできない。またこれができるから、人間は動物から袂を別って進化したのである。

 言葉なしにできるのは、「感じる」ことだけだ。しかしただ感じているだけでは、次の行動を自分で論理的に類推することができない。遺伝子の命ずるままに反応するだけである。猫が危険を察知したときに、とりあえず前に走り出して車にひかれてしまうのは、前に出た方が危険だと論理的に考えることができないからであろう。遺伝子は世代が変わるときにしか変わらないので、「車が来たら前に出た方が危ない」という情報が猫の遺伝子に書き込まれるまで何百年か、あるいは何千年かかかるのかわからない。

 つまり人間が何かモノを考えて、その場で判断なり結論が出せるということは、言葉を紡ぐ能力があるということである。文章を書くのが苦手なのは、考えるスピードに対して書くスピードが追いつかないとか、文章というフォーマットを意識しすぎるからではないだろうか。

 過去、紙とペンで文章を記していたときは、頭の中で文章をひねって一発勝負で書いていたように思われているかもしれない。だが実際にはレポートでも手紙でも、下書きなどして文章を推敲したのち本番に挑むというのが普通であったことを、もはや多くの人が忘れつつある。

 ブログなどに文章を綴る際、パソコンの能力的には下書きの紙も無駄にならず、文の入れ替えや一括置き換えなども簡単にできるはずだ。ただ文を推敲するための仕組みが、絶望的にまでうまくできていない。

 ブログやSNSの文章入力システムが変わるだけで、ネットには多くの論客が生まれるのではないかと思う。ネットの意見は最近ようやく重視されるようにはなってきたが、まだまだ多数決というか、その頭数でしか影響力を持たないのが実情である。ネット生まれの意見が世の中を変えていくためには、まずそういうところからの変革が必要なのではないか。

 パソコンがなんでも便利BOXではなく、考えるツールとなるためにやるべきことは、そんなに大変なことではないだろう。


小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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