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ハイエンドオーディオの復権麻倉怜士のデジタル閻魔帳(3/4 ページ)

» 2007年02月28日 00時00分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

 リニアPCMを収録するかどうかは映画会社次第なのですが、リニアPCMマルチチャンネルには相当なインパクトがあります。良い意味で、映像メディアの音という常識を裏切られますね。私は日経産業新聞の今年元旦号に「今年のデジタルAVのキーワードは“NEXT”だ」というコラムを寄稿しました。NEXTとは「No EXcuse Tone」――言い訳なしの高品質な音、ということです。

 BD-Rの登場からは、「メディアの記憶容量が少ないから、圧縮して記録しました。音質が悪いのはすみませんが許して下さい」という「Excuse」の世界を脱し、革命的に音質が向上するトレンドが読めました。圧縮されたマルチチャンネルからリニアPCMマルチチャンネルへの変化は、DVDが次世代DVDに進化し、映像がハイビジョンになり格段の高画質化したことと軌を一にします。まさに「本物の音の復権」といっていいでしょう。

 非圧縮という話では、私は大学での講義に使う音楽を分析するためにiPodに収録して、よく聴いていますが、今回、これまでのApple ロスレスから48kHz/16ビットのWAVに変更しました。曲あたりの容量は確かに増えますが、HDDタイプのiPodならばかなりの曲数が入りますし、WAVならばストレスなく気持ちよく音楽鑑賞できます。たとえモバイル系であってもよい音で聴くという体験はとても大切だと思います。

 昨年秋のA&Vフェスタには「ロスレスオーディオ」の展示があり、オンキヨーが自社のロスレス配信サービス(e-onkyo music store)に対応したAVアンプを参考展示していました。ブースではPCのHDDに保存されたロスレス楽曲を、AVアンプを介して再生するデモが行われていました。先ほどのMusic Giantsや日本でいうとe-onkyo musicなどが行っている高音質の音楽配信と、パソコンサーバー、ホームネットワークを介した高品位再生が、これからの時代によい音を楽しむ流れのひとつになるのではと感じました。

photo コルグの1ビットレコーダー「MR-1」

 音楽配信で配信される楽曲の音質は、サービス当初から良いものとはいえませんでした。圧縮での配信は、回線速度やユーザー側のストレージ環境を考えれば、以前はそれが合理的だったのですが、今後の光時代ではファイルサイズが大きくなっても、ロスレスやリニアPCMなどの「よい音での配信」が注目されることでしょう。

 楽器メーカーのコルグが販売している1ビットレコーダー「MR-1」「MR-1000」も興味深い存在ですね。これらはSACDに採用されている2.8224MHzでのDSDによる録音が可能なのですが、ある意味、合理的なサウンドとなりがちなPCMとはまた違い、エネルギー感のあるアナログ的な音を録音できます。

 こうした機器が登場してきたことは、「よい音」への欲求がリスニングだけではなく、音を作る/演奏するという領域に及んできたことを示します。この機械で録音すると、演奏者の魂の叫びが、まるで眼前に見えるようですね。ハイエンドオーディオの潮流が拡大している、とも言い換えられますね。

再生機器の変化

――一般的なユーザーからすると最も関心のある、スピーカーやアンプといった再生デバイスの世界にはどのような変化が起こっているのでしょう?

麻倉氏: 再生デバイス側にも革命は起こっています。スピーカーならばJBLの「Project EVEREST DD66000」(関連記事)には、「なんという音を出すスピーカーが商品として登場したのであろうか」、と心底驚かされました。

photo Project EVEREST DD66000

 個人的には再生デバイスには、「音楽がそこにある」ことが大切だと思っています。生演奏が再生されるまでには、マイクでの録音やデジタル化、メディアへの書き込み、プレーヤーでの再生、アンプでの増幅といろいろな変調機を経る必要があるのですが、現在はそのステップ数がとても多いのです。その段階をまったく感じさせないのが、Project EVEREST DD66000の素晴らしいところです。「スピーカーには固有のキャラクターがある」という一般概念がありますが、これにはまったくそれがありません。

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