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CGV(Consumer Generated Video)の成立要因と収益モデルを考える小寺信良(3/3 ページ)

» 2007年04月02日 08時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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CGVが手法化する可能性

 他の収益モデルは考えられないだろうか。コンテンツを直接販売できるルートとしての可能性の一つは、AppleのiTunes Storeだ。Video Podcastの配信システムを利用することで、大手ポータルに参加できるだけでなく、有償のコンテンツ配信も可能である。

 これが可能であるということは事実だが、現在Podcastとして配信されているコンテンツのほとんどが無料であることを考えると、この配信システム自体で収益を得るというモデルは難しいだろう。むしろPodcast自身が広告媒体である、あるいは何らかのインセンティブがあるから無償で配信しているという側面が、次第に強くなってきている。

 だがYouTubeと違って、もっと高い解像度で映像を配信できることは魅力である。また最近発売になったApple TVを意識したコンテンツ作りを行なう、つまりテレビで上映することにフォーカスしたコンテンツを作ることも、現実的になりつつある。

 ほかにはケータイサイトがポータルになり、CGV配信ビジネスに乗り出すという可能性はどうだろうか。インフラ利用そのものが課金体制にあるメディア構築に成功したケータイキャリアの中では、ビジネスモデルとしてはなんでもやりやすいとは言える。

 さらにケータイがCGVに与える影響は、メディアやインフラとしてのみならず、そのハードウェア自身がCGVを制作するツールとして機能するということである。ムービー機能の搭載、メモリの低価格化、そして自分撮りに対する抵抗の減少など、ケータイの機能はすでに社会に対して変化をもたらしている。

 一方、視聴するツールとしても、ケータイは機能的に十分なレベルを満たしつつある。ただ問題は、コンテンツそのものを課金対象にするビジネスは難しいだろうという点だ。多くのケータイコンテンツは、ダウンロード前に課金され、収益が確保されてからでなければ楽しむことができない。

 これはGyaOの収益モデルでもふれたように、事前にコンテンツの価値が担保できなければ、お金を払う人などいないということである。ここが音楽ダウンロードサービスなどとは決定的に違う点だ。

 ただ音楽ダウンロードにしてもブラウジングの不便さから、ランキング上位のものしか売れないという側面もある。ランキングが無作為であれば、ある程度コンテンツ品質の担保として機能するかもしれない。

 結局のところCGVは、対価を求めない限り、ある程度の市民権を得るだろう。だがそこに制作者としてのアイデンティティを確立させていけば、表現者としてプロの仲間入りをする、あるいはさせられるという状況になりうる。米国のPodcast(ビデオブログ)で有名だった「Rocketboom」などのように、企業や放送局に独占配信権を売るといったビジネスモデルに成長する例もある。

 結局のところCGVは、対価を求めない限り、ある程度の市民権を得るだろう。あるいは公に公開するのではなく、SNSのような仕組みに乗せて、内輪だけで楽しむものとして成立するかもしれない。ただそうなれば、かつてのP2Pと同じように、著作権違反の巣窟となる可能性もある。

 だが逆に公にさらして対価を与えることにより、著作権に関してクリアな状況を作ることができるとも考えられる。制作者がなんらかの対価を受け取ると言うことは、その支払いにおいて必ず個人が特定できるということでもあるからだ。

 法的罰則で常に監視下にある社会よりも、よくできたものには賞賛や報酬がある社会のほうが、より良いクリエイターを輩出することができるだろう。これはそのようなポジティブな社会に転換する、大きなチャンスかもしれないのである。


小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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