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「感覚的なよさ」を目指すソニーのオーディオインタビュー(2/2 ページ)

» 2007年04月04日 17時41分 公開
[渡邊宏,ITmedia]
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オーディオとしての原点回帰

――現職に就かれてからのオーディオ製品の展開、とくにNW-Eシリーズ以降のウォークマンの製品展開を見ていると、「音質」や「使い勝手」をアピールする、いわばオーディオ製品としての原点回帰をコンセプトにした製品が多いように思えますが、それは意図的なものなのでしょうか。

吉岡氏: 無意識のうちにそうなっているのかもしれませんね。「ソニーの強さとは何か」を原点に返って考えてみたのですが、音質を高めることは一朝一夕にはできないことなので、音質という基礎の基礎をまずは突き詰め、その上で付加価値を高めていくというアプローチがよいのではと思いました。オーディオのものづくりを進めていく上で、失ってはいけないのはなによりも「音質」。それを忘れてはいけないのです。

 外にいた経験があるからこそ見えるというモノもあります。またウォークマン携帯の話で恐縮ですが、“ウォークマン携帯”と名乗るだけで「音楽機能がついた携帯電話」とイメージしてもらえます。そうした理解をオーディオ製品全般に持ってもうこと――ソニーのオーディオがイコール高音質という言葉でつながるイメージを持ってもらうこと――が大切なのです。どんなに良い製品でも、理解してもらうためにゼロから説明をするのはとても大変なことですから。

――MP3に代表されるようなデジタルオーディオの技術が一般化するに従って、音楽への接し方も人それぞれになっています。着うたフルで十分という人もいれば、CDレベルのクオリティは欲しいという人、こんな時代だからとピュアオーディオシステムで限りなく高音質を求める人と、音楽への触れ方も多様化してます。製品作りに変化は起こるのでしょうか。

吉岡氏: ソニーの製品は本当に幅広いユーザーから支持されてます。そうしたユーザーへあまねく製品を届けなくてはいけません。プレーヤーからヘッドフォン、スピーカーに至るまで、オーディオ好きの人にはもちろん、ライトに楽しむ人にも十分な種類の製品を提供していく必要があると思います。

photo 250GバイトのHDDを搭載する“ネットジューク”「NAS-M90HD」とウォークマンの組み合わせ

 現在発売しているHDDコンポ「ネットジューク」はウォークマンと組み合わせると、PCを使わなくてもCDをリッピングして音楽を持ち出すことのできる機能を備えています。これはPCレスでポータブルオーディオプレーヤーを楽しんでもらうためのソリューションですが、「幅広いユーザー層へソニー製品を提供する」という考えを代表する製品の1つだと思います。

 これまでデジタルオーディオといえばPCの利用が前提になっていましたが、PCレスの提案は今後強化したい部分です。実はウォークマン用のダイレクトエンコーディングケーブルは予想を上回る売れ行きを見せています。PCを持ってはいるけれど、音楽を聴くためにPCを利用するのは面倒だと思っている人は、こちらが思っている以上に多いものですね。

 PCの存在を否定するわけではありません。汎用機であるPCにはもちろんそのよさがありますが、ウォークマンとしては音楽を楽しむ専用機、スタンドアロンのデバイスとしての存在感を高めていきたいのです。携帯に音楽再生機能を搭載した際、「ウォークマンが売れなくなる」と指摘する人がいましたが、そんなことはありませんでした。ウォークマンには音楽専用機としてふさわしいだけの音質、使い勝手を提供していけば支持してもらえるということです。

高音質をベースに感覚的なよさをプラスする製品作り

――そのウォークマンとネットジュークの連携ですが、ポータブル機器とホームオーディオ機器の両部門が共同で企画と開発をしていないとこうした製品は世に送り出せませんよね? これまでにはサイロにも例えられた縦割り構造を指摘されることもあったと思います。

吉岡氏: ちょうど1年前からオーディオに関する商品企画部門を1つに統合し、自由な意見交換やちょっとした立ち話ができるようにレイアウトも改めました。去年10月に発表したウォークマンとネットジュークについては、部門の机も隣同士でした。今年の4月からは技術部門も統一しました。

 こうした連携というか融合は今後もさらに進めていくつもりです。既に行った例としては、関連する製品のパンフレットすべてについて、統一感のあるデザインとカラーリングにしました。こうすれば「ソニーならトータルで大丈夫」という安心感を与えることができると思います。

――デジタルオーディオの普及や高級オーディオの復権など、「オーディオ」を取り巻く環境も常に変化しています。「ソニーのオーディオ」を舵取りしていく立場として、今後どのような方向性を目指していこうと思われますか。

吉岡氏: 高音質化への取り組みは常に継続していく必要があります。ただ、どこまでのレベルで製品に落とし込むかは微妙な判断が求められると思います。音質の追求も大切ですが、「どこでも聴ける」であるとか「曲を探す手間がかからない」といった利便性の追求も今後は強く求められるのではないでしょうか。

photo

 先日発売したウォークマン「NW-A800」シリーズは、高速なレスポンスが高く評価されています。つまりは感覚的なよさ、心地よさですね。現在の市場では、そうした部分がより高く評価されるように思います。オーディオに限らず、新登場する多くのデバイスは高機能化と同時に複雑化もしてるので、「感覚的なよさ」「わかりやすさ」はこれからさらに高めていくべき部分だと考えています。

 絶対に忘れてはいけない部分である「高音質」をベースに「感覚的なよさ」を加味し、さまざまなユーザーへ最適な製品を展開していくこと、これが目標ですね。

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