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“動画解像度”に関するいくつかの懸念(2/2 ページ)

» 2007年04月25日 14時24分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]
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 話を戻そう。apdc方式の動画解像度には、当初からいくつかの疑問が投げかけられていた。たとえば、移動するパターンがモノクロのため、色割れによる階調表現の悪化が動画解像度に反映されにくいという指摘。これが数値にどの程度影響するのか分からないが、指摘には頷ける。

photo 「Display 2007」のエフ・イー・テクノロジーズブースで行われた動画追従性比較

 パターンの移動速度を「端から端まで5秒」に設定している点も挙げられる。これは対液晶というより、むしろ有機ELやSED、FEDなどの次世代テレビとの比較においてプラズマに利するかもしれない。インパルス駆動のSEDやFEDなら、apdc方式で測定すると1080TV本(フルHDパネルの場合)がフルに見えるはずだが、フルHDプラズマの900TV本と比べても“液晶 v.s.プラズマ”ほどの差は感じないからだ。

 しかし、測定の条件をきつくする――パターンをより高速にスクロールすると、プラズマと次世代パネルとの差は広がるはず。先月の「Display2007」会場でエフ・イー・テクノロジーの担当者が話していてた「プラズマ陣営は12pixel/fieldで比較して“動画に強い”と言っているが、FEDはそれ以上」という言葉はそういう意味だろう。

photo 松下がPZ700シリーズの発表会で公開した資料。スクロール速度が速くなると動画解像度は下降する

 また、個人的に気になるのは、apdc方式では評価映像の動きが水平方向のみである点だ。解像感に最も影響する水平方向を最初の指標にしたこと自体に異議はないが、ドラマや映画でパンだけではなくティルトも多用されるし、サッカーの試合で横方向にしかパスを出さないなどあり得ない。将来的に拡張することは検討するべきだろう。

 たとえば、近い将来に倍速以上で駆動する液晶パネルが値下がりし、コスト競争の激しいエントリーモデルにまで波及したとき、動画解像度を利用して“見かけ上のスペック”を向上させた製品が出てこないとも限らない。倍速駆動の液晶テレビでは中間フレーム生成の精度が画質を大きく左右するため、各社とも上下左右・斜め方向を含めたベクトル演算技術を一生懸命開発したわけだが、測定方法が横方向だけでは、CPUパワーやメモリ容量をケチって水平方向だけを監視する……「考え過ぎ」と言われるかもしれないが、過去の低価格ハイビジョンテレビの中には、パネルがWXGA解像度だからといってデジタル放送のデコードを半分しか行わない“ハーフデコード”機だってあった。


 さて、いろいろとケチをつけてきたが、個人的にはapdc方式の“動画解像度”測定法は悪くない指標だと思っている。理由は割と単純で、数値が非常に分かりやすく、また画面を実際に見て感じた印象にかなり近いからだ。とくにブラウン管と比べて液晶の動画表示に首を傾げていた人たちにとっては、「我が意を得たり」と思える結果が出ているわけで、動画解像度という言葉が急速に広がった背景には、そうした事情が絡んでいると思う。

 液晶テレビのサイドに立って考えても、倍速駆動など最新技術の成果が見えやすいという点で「モノは使いよう」だろう(パナソニックは実践している)。とくに液晶の場合は、「応答速度」というスペックが信用をなくして久しく、新たに提案されたMPRT(Moving Picture Response Time:液晶パネルの応答速度をより客観的かつ人の目に近い形で数値化する指標)もまだ普及は見えていない。もちろん、MPRTが普及して状況が変わる可能性はあるし、液晶テレビメーカーの技術者からは、「apdc方式は、MPRTの測定が難しいプラズマ陣営が出した苦肉の策」という意見があったことも併せて紹介しておく。

 apdc方式の動画解像度は、いくつかの問題を内包しつつも認知度を高めてきた。apdcでは、「現在の測定方法は、いわば“ver.1”。将来的に改善や拡張をくわえる可能性はある」としており、今後の展開にも期待できそうだ。ただ、すべてのメーカーとユーザーを納得させるのなら、むしろプラズマ陣営の枠を超えて、標準化機関に提案するくらいの意気込みで臨んだほうがいい。ユーザーはいつだって、分かりやすい指標を求めているのだから。

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