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「四方一両損」を目指した議論は何故、ねじれたのか対談:小寺信良×椎名和夫(2)(1/4 ページ)

» 2007年11月07日 09時05分 公開
[津田大介,ITmedia]

 IT・音楽ジャーナリストの津田大介氏を司会に、本誌コラムでお馴染みの小寺信良氏と文化審議会著作権分科会 私的録音録画小委員会の委員を務める日本芸能実演家団体協議会常任理事の椎名和夫氏がデジタル放送著作権管理の闇を解きほぐす本対談。

 前回(→「ダビング10」はコピーワンスの緩和か)は「ダビング10」へと変貌したコピーワンスの、その経緯について椎名氏から意外な事実が、また、コピーワンス導入の不透明性が小寺氏から指摘された。今回はさらに深く切り込んでいく。なぜ、権利者・放送事業者・機器メーカー・消費者がともに利益と痛みを背負う「四方一両損」を目指したはずの議論はねじれたのか。

photo 左から日本芸能実演家団体協議会常任理事の椎名和夫氏、IT・音楽ジャーナリストの津田大介氏、映像系エンジニア/アナリストの小寺信良氏。議論は和やかな雰囲気の中も白熱していく

ねじれた議論、置き去りにされた「一世代」への検討

――今までのお話を伺っていると、EPNからコピーナイン(ダビング10)の方向に流れていったきっかけというのは、JEITAの説明の不備ということもあるんでしょうが、個人的には今年3月9日に行われた「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」の第12回の議論(リンク先PDF)……具体的に言うと、消費者側の委員が「消費者は無制限のコピーを望んでいるわけじゃなく、枚数を探りながら制限を感じさせないようなコピーをさせてもらいたい」と答えたことが非常に重要なターニングポイントになっていると思います(編注:本対談はダビング10の名称が発表される前の9月末に行われた)。

 消費者側の委員がおっしゃったことは、僕もメンタリティとしては理解できるけど、多分彼女たちは今、デジタル録画に関して、録画されたものがどのようにプレーヤーにコピーされたり、編集されたりといった実態は恐らく知らないですよね。

 僕自身もデジタル録画したものを100回とか1000回とかコピーするわけじゃないですけど、それでも現実問題として、PCで1回録画したものをモバイル向けに変換してCMカットや番組分割で自分が見やすいように作り直して、さらにメディアにも保存しておくかといったことやってると9回とかって割とすぐに消費しちゃうじゃないですか。自由に録画した動画ファイルを扱おうとすると、9回という制限がネックになるユーザーは確実に出てくきますよ。

椎名氏: マニアックにあれこれやっていたら、9回使っちゃうかもね。

――そのあたりはもちろんコピーナインの運用ルールをどうするのか、ということにもよりますが、厳しめの運用になったときに制限が出てくる可能性を知らない消費者が、権利者の「あなたがた無制限望んでるんですか!」みたいな売り言葉に、買い言葉として「そんなことはないです!」と答えてしまったことに、この問題の根っこというか不幸のひとつがあるような気がします。デジタル技術を駆使してコンテンツを楽しんでいるようなユーザーからみれば、「勝手にそんなところでOKしないでくれよ」っていう部分も出てくるだろうし、これがこの議論をネジれさせちゃってる部分があるんじゃないかと。

小寺氏: これって9回がどうとかじゃなくて、コピーワンジェネレーション(COG)が利用実態に即しているかどうかという問題なんですよ。つまり、「一世代・9回で十分か」という点で考えると、「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」の消費者代表の方々の技術的な無理解というのはどうしてもあると思うんですよね。

photo 小寺氏

 今回9回に決められた背景として「携帯電話とかポータブルデバイスにコンテンツをコピーして楽しむという文化があるから、それらを担保するために9回なんだ」とおっしゃられるわけですが、じゃあこれを実際に運用するとどうなるかというと、細かい問題がいろいろ生じてきます。

 まずレコーダーで録画すると、それが元になるわけです。その元のデータをコピーする場合、次からは一世代しかデジタルコピーできないわけじゃないですか。ということは、リビングなどに置かれている据え置き型のレコーダーに“直接”携帯電話やiPodを接続できるようにしなくちゃいけなくなるし、その必要が出てくるわけです。

 そういう小型のデバイスは次々に新しい製品がいろいろなメーカーから発売されてきてますよね。でも、一世代しかデジタルコピーを認めないという話になると、そういう数え切れないほど出てるプレーヤーの中身を、直接据え置き型のレコーダーと接続して、1世代デジタルコピーできるように、お互いの機器のファームウェアなりソフトウェアなりをアップグレードして対応していかなきゃ状況についていけなくなるわけです。でも、現状のデジタルレコーダーってそういう機械じゃないじゃないですか。

椎名氏: うん。現行はね。

小寺氏: 機器の安定性を確保するという観点で考えれば、ああいう機器のファームウェアはそうそう変えられるものじゃない。利用者の立場から見ても、ああいう据え置き型レコーダーは、とにかく「毎回同じ動作を確実に繰り返せる」というメリットがあるから、わざわざパソコンじゃなくて、汎用性の高いレコーダーを使ってるわけです。

――つまり、1世代にデジタルコピーが限定される状況では、iPodに代表されるポータブルメディアプレーヤーを活用するには、「1回目の録画」をパソコンで行わなきゃいけないという現象が生じると。

小寺氏: そう。最初の録画をパソコンにする必要が出てくるんじゃないでしょうか。でも、現状のデジタル放送はパソコンで録画した後に、自由にそのコンテンツをコピーすることが許されていないわけです。

椎名氏: CPRMに対応してなきゃDVDに焼くこともできないですからね。ただね、そういう細かい話っていうのは消費者代表も確かに分かってないと思うんだけど、僕らも完全に理解しているわけじゃないんです。だから、ああいう委員会の中で事実確認を繰り返して今の結論に至った部分というのがあるわけで……。そこは、先が見えない議論の中で、ようやく話が見つかった方向に流れていったというのが正味のところだと思うんですよ。

 確かに技術的な素人集団が多く集まってこれを議論したという部分はあるんですけど、ひとつ大きな話として言っておきたいのは、村井純先生というのはDTCP-IPの標準化に携わった方なんですよ。こうした問題について、問題意識がないわけがないんですよね。

 だから、ポータブルメディアプレーヤーみたいな細かいデバイスを機器に直接接続される状況を積極的に流行らせていくみたいな意識も多分あったんじゃないかと僕は思うんですよ。ICカードをセットできたり、IEEE1394を介在しないでいろいろな拡張が行えるような製品のニーズを高めるとか、そういう部分も持たせて今の結論にしているんじゃないかと。

 あと、録画したコンテンツのコピーや編集の自由度の話でいえば、放送事業者からみれば「コピーは私的複製の範囲で認めてるけど、別にユーザーに“編集する権利”まで与えた覚えはない」という考えはあると思いますよ。

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