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ダビング10の向こうに光は見えるのか対談:小寺信良×椎名和夫(最終回)(1/6 ページ)

» 2007年11月08日 08時30分 公開
[津田大介,ITmedia]

 IT・音楽ジャーナリストの津田大介氏を司会に、本誌コラムでお馴染みの小寺信良氏と文化審議会著作権分科会 私的録音録画小委員会の委員を務める日本芸能実演家団体協議会常任理事の椎名和夫氏が、コピーワンスからダビング10へと変容しながらも依然として正体のつかめない、デジタル放送著作権管理のもつれた糸を解きほぐす対談も今回で最終回を迎える。

 前々回(「ダビング10」はコピーワンスの緩和か)では「ダビング10」に至る経緯やそもそもコピーワンスが導入された際の不透明性について議論され、前回(「四方一両損」を目指した議論は何故、ねじれたのか)ではは権利者・放送事業者・機器メーカー・消費者がともに利益と痛みを背負う「四方一両損」を目指したはずの議論がなぜねじれていったか語られた。

 最終回を迎える今回は、なかなか議論の表舞台に立たない放送局やコピーワンスに並ぶもうひとつの放送業界の闇「B-CAS」についても言及しながら、激論は重ねられていく。果たして、ダビング10の向こうに光は見えるのか。

photo 左から日本芸能実演家団体協議会常任理事の椎名和夫氏、IT・音楽ジャーナリストの津田大介氏、映像系エンジニア/アナリストの小寺信良氏

――コンテンツビジネスは特に顕著だと思うんですが、「原則自由」で問題になった時だけ対処するアメリカと、「原則規制」でビジネススキームを変えるような新しいITサービスが出てこない日本の違いはやはり大きいですよね。そもそもコピーワンスという世界でも類を見ない厳しいDRMが突然導入されちゃうのも日本ならではという気がしますし。

 でも、実際に地デジが普及してきて、コピーワンスは不便だぞということに消費者が気づいてきて、あとは「アナログ停波までに何とかしなきゃいけない」という政治的な理由で半ば強引に緩和されることになったわけですけど、暫定的な結論でいいのなら僕はEPNでも良かったんじゃないかなという部分はあるんです。

 原則規制から入って、厳しいところから徐々にゆるめていくって方針でやっていて、新しいコンテンツビジネスやスキームが生まれてくるかと言われると、多分生まれないないだろうなあって思っちゃうんですよ。そういう環境的要因を変えないで「コンテンツ振興だ」とか「コンテンツを世界に輸出していこう」とか言われても、どうなのよそれ? っていう根本的な疑問があるんですよね。

椎名氏: だから、コピーナインの話でいえば、僕はこれで決まりっていう認識じゃないですよ。決まったことに対してこちらから文句言うこともあるだろうし、録画されたものの著作権をどうするかという話でいえば、補償金制度やネット上の海賊版やら、懸念事項はいくらでもあるわけです(編注:本対談はダビング10の名称が発表される前の9月末に行われた)。

 逆に考えれば、ユーザーもどんどんこの問題に対して声を上げていけばいいと思います。「使ってみたらこんな不便なことがあった」とか「ムーブ失敗とかありえない。ふざけるな」とかね。

小寺氏: そうなんですよ。だから、僕らもデジタルとかITとかに強い、ちゃんとした消費者団体を作って、そのメンバーが委員会に入っていかないとダメだろうなと感じます。「結局は政治を動かさなきゃしょうがないよね」って話になる。

椎名氏: いや、それはそうですよ。本当に。

小寺氏: 椎名さんが自分で団体作られて活動されているのは、そういう思いが強かったんだろうなと思うんですよね。

実演家の代表としての立場

――時には、自分の本音とはまったく反対のことだって委員会の席上では立場上言わなきゃいけなくなるわけですしね。

椎名氏: まぁ、そういう部分もあるかな。ただ、そういう時は極力何も言わないようにしてるんだけどね(笑)。

小寺氏: そういう話でいえばね。こういう著作権問題で椎名さんはいろいろ矢面に立つことが多いじゃないですか。例えばこの前の補償金制度は不可欠であるという記者発表とか。僕が思うのは、実演家の代表である椎名さんがどちらかというと放送業界の問題であるあの話で、代表としてしゃべることはないんじゃないかってことなんです。

椎名氏: いや、それはJEITAが一方の委員会で補償金前提でコピーナインに決着した経緯があるのに、それを無視して私的録音録画小委員会の方で補償金は廃止せよという主張をした。はっきりいってそれに対する憤りがあったからですよ。

小寺氏: もちろんそういう背景は理解してますよ。それはそうなんだけど、僕が気にしているのはそういう問題じゃなくて、ああいう「権利者団体の発表です」という場で、椎名さんが代表してしゃべっちゃうのは、音楽業界とかミュージシャンの権利というか、彼らの立場を守るという視点で考えれば、はっきり言って非常にマイナスだと思うんですよね。

――それは、ああいう会見で椎名さんが代表してしゃべっちゃうことで、アーティストや音楽家が消費者からわかりやすい「敵」とみなされるってことですよね。

小寺氏: そう。音楽家がある種畑違いの「録画」という問題で、ああいう強い主張をしちゃうと、消費者からは「アーティストって何様?」みたいな話になっちゃう。僕はそれって結局CCCD問題と同じような結末になっちゃうと思うんですよ。CCCDを肯定したアーティストがネットで叩かれて掲示板が炎上して……みたいな話の再燃になっちゃう。

椎名氏: あのね、僕がどういう見られ方をするとかしないとかっていう話とは別にね、もともとの話をすると、去年の「IPマルチキャスト」に関する法改正のところまでさかのぼるんだけど、当時竹中総務大臣の諮問機関で「通信と放送の在り方に関する懇談会」っていうのがあって、そこに芸団協CPRAの代表として……つまり実演家の代表という形で呼ばれて意見陳述をしたってことがあるんです。

 そこからこの検討委員会に至る流れの中では、僕の立場はミュージシャンとしての立場ではなく、歌手や俳優、芸人さん達も含んだ全実演家の代表としての立場で発言しているんです。さっきも言いましたけど、二次利用されることで対価を得る形の実演家全体から見れば、放送番組の複製っていう問題は決して小さな問題ではないですからね。

 で……、そこからさらに進んで、この「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」(デジコン委員会)の検討の中では、権利者サイドからいろいろ突っ込むような役割りを僕がたまたま担っちゃったってこともあって、そういう経緯からあの記者会見に至るんです。だから、僕自身の出自がどうなのかってことと、この問題ははっきりいって関係ないんです。

小寺氏: いや、正直言うと椎名さん個人がどう思われるかってことじゃなくて、消費者は明らかに「ミュージシャンが強硬に補償金を欲しがっている」ように見てますけど、それでいいんですか?って話なんです。

――でも、椎名さんって権利者団体の代表でありつつ、行動派的なほかの「顔」も持っているじゃないですか。ネット上を揺るがす大問題になった電気用品安全法(PSE法)のとき、先頭に立っていち早く行動して、記者会見なんかも行って、中古ゲーム機やヴィンテージ楽器とかを守った、ヒーローでもあるわけですよ。

小寺氏: そうですよね。署名をあれだけ集めるのも大変だったでしょうし、あの署名活動や記者会見なんかで経産省にかけたプレッシャーはとても大きかったと思う。

――ある面ではヒーローである椎名さんが私的録音補償金問題や、コピーナイン問題では、それこそネット上で「悪の権化」ぐらいの間違ったイメージで批判されちゃったりもしてるわけじゃないですか。

椎名氏: いやぁ……だから、こういう対談やることでそういう悪いイメージがちょっとでも変わって、ついでに補償金のイメージも変わるといいんだけどね(笑)

一同: (笑)

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