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ダビング10の向こうに光は見えるのか対談:小寺信良×椎名和夫(最終回)(4/6 ページ)

» 2007年11月08日 08時30分 公開
[津田大介,ITmedia]

もうひとつの闇「B-CAS」

――なるほど……これは根が深い問題ですね。根が深い問題といえば、もうひとつ、デジタル放送についてはB-CASの問題があると思うんですが、このあたりについてどうですか?

小寺氏: 根が深いというか、B-CASでスクランブルをかけたということ自体がコピーワンス問題のそもそもの原点ですよ。現状B-CASカードを挿さないとチューナーが作れないじゃないですか。しかも、カードがあの大きさなんで地デジチューナー載せたカーナビとかが非常に作りにくいんですよ。実は以前、あのカード式をやめてチップ化したらどうかっていう話があったんですよ。でもそれは現状立ち消えになってるんですよね。

椎名氏: 権利者的にその問題についていえば、転売とか転用の問題があるんですよ。昔は一家にB-CASカード1枚くらいしかないだろうという前提でやってたけど、今は何台もある機器ごとに何枚もカードがある。機械と完全にヒモ付いてるわけじゃないから、古くなってもう使わなくなったテレビからB-CASカード外して転売したり、ほかの機械に挿し直せるみたいなことがおきちゃう。

 B-CASみたいな仕組みがあれば、コピーワンスに反応しない機械が出てきたときにカードをセットしないと視聴できないからエンフォースメントになるという話があるんだけど、そのエンフォースメントって、もはや無意味なんですよね。ある程度テレビやレコーダーが普及しちゃうと家の中にB-CASカードが3枚くらい存在するわけじゃないですか。そしたら、使わないカードを抜いて、どこかで買ってきた外国製の怪しげなチューナーに挿しちゃえばOKみたいなことができるわけで、根本の問題として、何のためにB-CASが存在したのかって話ですよね。

photo 小寺氏

小寺氏: B-CASカードって実は非常に多機能で、個人情報なんかも書き込めるわけですよ。でも、個人情報が書き込まれているということを消費者が知らない状態で、ネットオークションとか使って中古でテレビやレコーダー売っちゃったらどうなるの? って話もあるんです。B-CASカードを管理しているのは、単なる株式会社に過ぎない一法人なんです。そんな国民の世帯数に匹敵するだけの情報をもったカードが、公益法人でもない一営利法人が管理していいの? っていう根本的な問題がありますよね。あと、これだけはどうしても言っておきたいんだけど、僕的にもう一個気に入らないのは、NHKがあの仕組みを悪用してること。

椎名氏: ああ、受信料の問題ね。

小寺氏: NHKに登録しない状態で新しくテレビ買って2週間くらい何もしないとNHKが映ったときに、画面上にNHKに連絡しろって警告が出るじゃないですか。あれって要するに番組というものを人質にして、受信料を払っているかどうかという個人情報を強制的に搾取してるわけですよね。僕はあれって法的に何か問題があるんじゃないかと思ってるんです。

 もうひとつクリエイターの立場からすれば、せっかく作った映像に意図しない警告表示が画面にでかでかと出るわけですよ。自分の作った絵の大事な部分や、ここをぜひ視聴者に見て欲しいみたいなところが台無しになっちゃう。

――クリエイターの人格権(同一性保持権)を侵害してますよね。

小寺氏: うん。僕はテレビの編集マンとして、あのやり方が一番許せない。卑怯だと思いますよ。

椎名氏: B-CASって、そろそろ他の方法を考えるべき時期に来てるんじゃないかな。

――でもコピーワンスもB-CASも本質は似た感じがありますよね。消費者や権利者がよくわからないうちに密室で決められて、それで実際に問題が生じたら、みんなでよってたかって尻ぬぐいをして、どこに落としどころ持って行けばいいかわからないみたいな状況になってるあたりが。

椎名氏: 最初の発想としては、有料放送にスクランブルをかけるという目的があったわけだよね? で、それがなぜか行く方向が間違って地上波にもかけたってことでしょ。

小寺氏: 当時は衛星放送から始まったので、「海外での視聴阻止」という目的があったんですよ。

椎名氏: ああ……なるほど。

小寺氏: つまり、衛星放送だと、近隣の台湾とか韓国で視聴できちゃうんで、そういうところへのコンテンツ流出を保護したいという意図があった。衛星放送には何らかのスクランブルをかけなければ大変なことになるぞということが最初にあったんだと思います。

椎名氏: いや、コピーワンスならまだしも、B-CASとなると、具体的な話はまったくわからないね。一権利者としては。

小寺氏: あれが始まったのって、もう90年代の話なんです。実はみんなDRMみたいなところまで意識がなかった時代なんですよね。ここ10年くらいで、急速にそういう著作権保護意識が高まってきたので、後付でさかのぼって調べても分からないことがたくさんあるんですよね。

――なぜこの株式会社がやってるのかとか、資金の流れがどうなってるんだ、とか不明な点が多すぎますよね。

小寺氏: BS放送の放送局って地上波の放送局の子会社じゃないですか。でも、B-CASの管理会社はBSの放送局が出資してるんですよ。つまり、放送局の子会社のさらに下にある会社が、日本中のテレビを管理しているという(笑)。それで逆らうメーカーがあればB-CASカード発行停止にするわけですよ。それってどうなの。

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