ITmedia NEWS >

CEATECで見つけた3つの次世代トレンド麻倉怜士のデジタル閻魔帳(3/5 ページ)

» 2007年11月12日 08時30分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

 液晶自体は自発光しないのでプラズマや有機ELとの違いは残ります。ですが、液晶がこれまで獲得できなかったコントラストを得られると言うことで話題になりましたし、来年秋には各社が標準的に備える機能となるでしょう。LEDの採用が必須になりますので、トータルとしての技術開発が求められることになりますが。

photo 日本ビクターの展示していた180Hz駆動液晶

 180Hz駆動を展示していた、日本ビクターのアクティブさも印象的です。駆動速度に関しては240Hzあたりになると人間の目の視聴限界を超えるので、動画対策としてはほぼ完成の域に近づいて来たと言えます。そのほかにも部分輝度制御や新GENESSAなど、同社ならでは画像研究の実用化が目を引きました。首脳陣がリアプロを見限り、液晶へシフトすることを明言していましたが、それを裏付ける展示でしたね。

 こうした展示を見ていて感じたのは、「強いビジネスモデル」を生み出すために発想の転換が必要になるのではということです。これまでは、垂直統合型が画質的な「勝ち」を作り出せるシステムでありモデルでした。いい例がパイオニアです。パネルを作り、絵作りを反映させて強い製品を作り出しています。シャープも垂直統合式の生産をしていますが、それが画質へ直結しているかと言えば、まだそうとも言えません。

 日本ビクターは自社でパネル生産を行っていませんが、今回の展示を見ると、すべてをパネルメーカーに任せるのではなく、自社ならではの「勝つ」要素を各所へ折り込むことを目指していることに気が付きます。いわば、付加価値分散型ともいえるモデルです。

 発光部分は他社から提供を受けますが、バックライト、ドライバーは自社で補うことで、付加価値や絵作りの部分は同社が担当するといったモデルです。そうすることで、「ビクター」としての強い絵を作りだせます。CRT時代の同社のポジションを再度築くモデルとして注目したいですね。

次世代ディスクのトレンド

――昨年、一昨年はBlu-ray Disc/HD DVDともに本格始動しておらず、規格争いが注目されましたが、今年はパナソニック/ソニー/シャープが新型レコーダーを展示するなど、Blu-ray Disc陣営が大きくリードしたような印象を受けますがいかがですか?

photo パナソニックはCEATECの会場で新型BDレコーダーを発表

麻倉氏: 確かに。では、ここで東芝のレコーダーについて、たっぷりとしゃべりましょう。私はRDが大好きです。なせなら編集機能と、画質へのこだわりがあるからです。日頃RDを使っていて、プレイリストがつくれ、プレイリストのダビングもできること、当初からインデックス信号と編集点が一致していたこと、リモコンの再生ボタン回りの正しいレイアウト……などなど、それは業界的な規範といってもいいでしょう。もうひとつ、画質へのこだわりも東芝の宝でした。DVDの9200番などは、当時、圧倒的な高画質を誇りました。そんな伝統は業界的にみても貴重なものです。

 しかし、そんな本来強いはずのRDなのに、次世代DVDの世界ではBDに大差をつけられていたと確認してしまったのが、今回のCEATECでした。BDA(Blu-ray Disc Association)が会見で市場シェアの数値を出していましたが、ハード/記録メディアもいずれも9割以上がBD、パッケージソフトのトップ10はすべてBDということです。これはGfKマーケティングの調べですから、客観的なデータですね。

 HD DVDの方が半年は市場で先行していたのに、どうしてこのようなことになったのか。昨年12月の段階で、すでに国内市場は9:1でした。これは価格の高い「RD-A1」(39万8000円)しかなかったから仕方がないという言い方もできました、今年の6月に買いやすい価格の「RD-A600」「RD-A300」を出しても、この有様とはまったく情けない限りです。

 アメリカではBDタイトルの出荷数がHD DVDの2倍となる300万を超えています。一方、東芝の藤井さん(同社執行役上席常務 デジタルメディアネットワーク社 社長藤井美英氏)は、5日のキーノートで「アメリカでは2007年のゲーム機/ゲーム周辺機器を除いたプレーヤーのシェアは55%とBDを超えている」と言いました。これはプレイステーション3を抜いた数字ですね。互いに舌戦が熱かったです。確かに欧米ではHD DVDはそれなりに健闘していますね。

 でも問題は日本。東芝は市場シェアが小さいのだから、その中でBDが9割といってもナンセンスという意見ですね。シェアの差などは、市場が小さい(レコーダー全体の約2%)のだから取るに足りない、あとで本気になって取り組めば、いくらでも取り返せるということです。

 確かに今後、BD陣営が何もしないのなら、逆転の可能性はあります。でも、これからBD側は発売メーカーも増え、本格的に製品をどんどん投入するでしょう。既にパナソニックが3機種、ソニーが4機種、シャープが3機種を発表していますし、今後も増えるでしょう。特にソニーはSD記録のレコーダーはやめて、すべてBDレコーダーにするといっています。

 BDは容量とサポートメーカーが多い。やはり客観的にみて、この2点はフォーマットとしての強さに直結しているのではないでしょうか。1層ではBDが25Gバイト・HD DVDが15Gバイトで、2層ではBDが50Gバイト・HD DVDが30Gバイトです。BDは数の論理とフォーマットの強さとバラエティのある製品力で押します。

 HD DVDは東芝一社しかないのですから、このまま手をこまねいていては市場拡大とともに、さらに差が開いていくのではないでしょうか。困ったものです。これは選挙速報が、開票が進んでいないのに、なぜ当確が出るのかという話と似ています。

 “「9:1」に甘んじているのは本気になっていないから”というのなら、本気を出し惜しみしてはダメです。CEATECの展示をみても、展示面積を大幅に拡大させているBD陣営に比べ、東芝のHD DVDブースは単に参考展示でした。もっともっと頑張って欲しい。編集にこだわったレコーダーの本家なのですから。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.